第9話
朝。
リリーはパチリと目を覚ますと、昨夜の色々な出来事を思い出して思わず目を閉じる。
昨夜の恐怖を思い出すとまだ頭がクラクラするような感じがしたし、自分の……とんでもない行動を思い出すと、今すぐ布団の上で手足をバタバタさせて暴れ回りたいような気分にもなった。
「朝から何を考えている。」
「きゃあ! お、起きてるなら言ってちょうだい!」
「変な顔だ。リリーがそんな顔をするのは余計な考え事をしているときだ。いつもは朝からそんな顔はしない。」
「変な顔だなんて、なんてことを言うのかしら……。私の真似をして可愛くお喋りしていた頃に戻れば良いのに。」
「ふん。」
リリーはアメリのほうをちらりと見る。寝起きの人間の顔は見苦しいものだが、アメリは朝から完璧な美貌を保っていた。豊かな乳房が今にも服からこぼれそうになっており……リリーは思わず顔を背ける。
アメリのことをそういう目で見ることへの後ろめたさもあったし、アメリと違って醜いであろう自分の寝起きの顔を見られることへの恥じらいもあった。特に今日は昨夜の涙や鼻水の跡が残っているため、輪をかけて見苦しいことになっているはずだ。
アメリは顔を背けられたことに不快感を感じたのか眉を顰めると、起きたなら飯だと言わんばかりにリリーを布団から引きずり出しズルズルと洗面所へ引っ張っていく。
その道中、一瞬視界に入ってきた裏庭の畑が荒れに荒れている様子を見て、リリーはドキリとする。
「あ……。」
「どうした?」
「畑……、めちゃくちゃになっているわ。野良犬でも来たのかしら……ね?」
リリーは気付かれないようにアメリに視線を向ける。その顔は無表情で、この世のすべてを些末事とでも思っていそうな冷たい印象を受ける。
「いや、熊だ。」
素直に熊と教えてくれたことに驚き、リリーは今度はしっかりとアメリを見やった。
「熊が出たの?」
「うん。」
「そう……、アメリは、熊を見たの? 熊は何もせずに森へ帰っていった?」
アメリは短く「いや、我が殺した。」と答える。その顔は先ほどと同じく、無表情だ。せめて始末したとか、駆除したとか言い方ってものがあると思うが、そのような機微はアメリには無いようだ。それにリリーは短く相槌を打つことしか出来なかった。あれはアメリにとって、誤魔化す必要もない程に、取るに足らない出来事なのだ。それが良いことなのか悪いことなのか、やはりリリーには分からなかった。
そんなリリーの気持ちなどつゆ知らず、アメリは洗面台の冷たい水で無遠慮にリリーの顔を洗うと、文句を言うリリーに向かって言葉を発する。
「早く着替えて、朝食を食べたほうが良さそうだ。遠くから、知らない人間がこちらへ向かってくる気配がする。」
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