自作理論

 自作理論含め「卒業制作」だったので併せて載せてしまいます。この先は読んでも読まなくても構いませんが、マードックや吹奏楽部について少し詳しく解説されています。

 自作理論の前にあとがきとさせていただきます。

 この小説を読んでいただきありがとうございました。吹奏楽部経験者には絶対に「わかる」部分、あったと思います。ぜひうちの部はこうだった! とかあれば感想でお聞かせください。

 読んでいただいたお時間が少しでも有意義なものになっておりましたら幸いです。






制作意図

 今回の作品の主題は一言で「青春」だった。私が高校で吹奏楽部として汗を流していたときに体験した「青春」だ。それを卒業制作として形にしたいと思ったのは比較的早く、大学三年生のころには卒業制作として高校の吹奏楽を舞台にすることを決めていた。とはいえそのときにはまだファンタジー要素も加える予定で、「先生の教え子であった幽霊」が主人公である結愛たちや先生に気づかれないよう力を貸す、という設定があった。


 しかしながら卒業制作に本格的に取り掛かるにあたって初めに考えたことは「今まで通りの作品を今まで通り仕上げてよいのだろうか」ということだ。今までさまざまな作品を仕上げてきたがどれもファンタジーである。集大成としては今回も同ジャンルを扱うのは適切だろうが、前述したファンタジー要素は今までそういったジャンルばかりを書いていた私の甘えによって決められた設定で、これをメインに据えるには充分ではない。


 ならば新たな挑戦としてファンタジー要素を排除し、できる限り私の経験に基づいたリアルな作品を描いた方が成長に繋がると考えた。そこで、私自身が高校三年生の時にコンクールで演奏した「マードックからの最後の手紙」を用いて「部活」と「曲」二つのストーリーを展開できないかと考え、今回の作品の制作に至った。





方法

〈舞台〉

 高校の吹奏楽部。強豪校というわけでもなく、コンクールは地区大会を突破できたりできなかったりといわゆる「普通」の吹奏楽部である。

 

 出場するコンクールは出場者の上限が三十人のB部門と呼ばれるものだ。主人公たちの高校では一年生から三年生まで例外なくオーディションによって選ばれている。今回は三年生全員の十六人と二年生十一人、一年生三人で構成されている。


「マードックからの最後の手紙」は樽屋雅徳が作曲したもので、中高の吹奏楽コンクールではよく演奏される楽曲の一つだ。処女航海を終えることなく沈没してしまったタイタニック号に乗っていた、一等航海士であるマードックに焦点を当てている。曲中ではタイタニック号がアイルランド周辺を航海したことからアイリッシュ調の音楽が使われたり、氷山の衝突を警告する音が表現されたりと、ストーリー性の高い曲になっている。


〈主要な登場人物〉

・結愛(ゆあ):クラリネットパートのリーダーで、コンクール曲ではソロを担当する。

 今年演奏することになった「マードックからの最後の手紙」は吹奏楽を始めた中学生のころからずっと吹きたいと憧れていた曲で、高校三年生のコンクールでその夢が叶ったことをとても喜んでいる。少し引っ込み思案なところがあり、演奏面でも高音がきれいで優しい音色をしているが、技術が結愛よりも勝る同級生のしぐれに劣等感を抱いていた。マードックが実際にタイタニック号に乗っていた組員であるのを知ったことをきっかけに曲のストーリーを思い描くようになる。練習後には家でその日の合奏の録音を聴き、気になったことや思いついたストーリーをノートにまとめているマメなところもある。


・しぐれ:クラリネットパートの三年生。

 自分にも他人にもストイックで、誰よりも練習していると自他ともに認める努力家である。そのため自信のない発言をする結愛や、パートリーダーにも関わらず遅刻してしまった沙奈絵に対してきつい言葉を発することもある。しかし、一生懸命練習する結愛に根気強く付き合ったり緊張しているのを見て気を使ったりと、優しい面も併せ持つ。


・舞衣(まい):吹奏楽部長。

 フルートとピッコロを吹いていて、技術も人柄も全員から一目置かれる存在。周りをよく見てなにをすべきか判断しながら物事をそつなく進め、一方でいいと思ったことはすぐに行動に移す行動力の持ち主である。全員で悔いなくやりきろうという意志が強く、それを乱してしまう行為には厳しい一面もある。


・寄田(よりた):吹奏楽顧問。

 十四年間吹奏楽の顧問を務めてきたが、妊娠を機に教師を辞め、吹奏楽顧問も退任することになった。生徒のことを名前で呼ぶなど距離が近く、部員たちからはかなり好かれている。優しく、時に厳しく指導するが、夏のコンクールに向けて切磋琢磨し青春している生徒たちと共に、自分も毎年青春を味わえることにやりがいを感じている。




〈あらすじ〉

 冒頭は「マードックからの最後の手紙」の出だしのストーリーから始まる。顧問の先生に演奏を止められる形で吹奏楽部の方へと場面を移す。合奏を終え、結愛は個人練習でソロの練習をするが、飛躍がうまくいかずに苦戦していたところをしずくにアドバイスを通して勇気づけられ、一層がんばることを誓った。


 練習の中で指揮に頼らず呼吸や手の動きで合わせて曲を歌ったり、全員で「マードックからの最後の手紙」のストーリーを共有したりして、団結を高めていく。


 そんな折、先生から妊娠しており、出産を機に退職することがみんなに伝えられる。三年生だけでなく先生も今回が最後のコンクールとなる。それを聞いて、全員が先生に最高の演奏をプレゼントすることを決意した。


 コンクール直前のホール練習で、しぐれのソロを聴くことになる。結愛の優しいメロディとは少々違う、強さも持ち合わせた音色に、しぐれらしさと「ソロをもらう」発言が本気であったことを感じ、それでもソロを任せてくれていることにありがたく思う。


 コンクール地区大会当日、結愛含め全員が全てを出し切ったが結果は銀賞で、金賞まであと四点という僅差であった。結果はふるわなかったものの、やり切ったことに全員が満足して夏が終わる。結愛はずっと不安だったソロを審査員の講評やみんなにほめられ、安堵と達成感の涙を流す。


 コンクール後の三年生最後の活動日には、今まで使ってきた楽器を丁寧に手入れし、結愛たちと共に最後のコンクールとなった先生に感謝の気持ちを伝えた。


<マードックからの最後の手紙と本作の関係>

 私が吹奏楽部の時に実際に部で決めたものを元に今回の作品でも場面ごとのストーリーを決めた。アルファベットは場面ごとに楽譜に記載されているもので、本作は「マードックからの最後の手紙」のストーリーに対応して物語も進んでいる。以下「マードックと最後の手紙」のストーリーと本作の関連について述べる。


・前奏〜A:木管楽器が主体の穏やかなメロディで始まる。夜明け前、タイタニック号が出航を控え、港に佇んでいる。マードックはしばらく会えなくなる家族と別れを惜しんだ。

→本作はこのシーンの合奏から始まり、冒頭は結愛がこの場面で抱いているイメージである。


・B~E:まだ静かではあるがクレッシェンドやシンバルの音で少しずつ音が増えていく。夜明けを迎え、この後の賑やかな場面へと繋がる。Cでは一気に雰囲気は変化し、アイリッシュ調の明るい曲調となる。木管楽器が弾んだメロディでリズムを刻みながら、金管楽器が裏メロディでさらに曲を盛り上げていく。無事出航し、船内で乗客たちがダンスを踊っている様子。Eの後半で急激にテンポが落とされて、夜が更けていく様子が描かれている。

 →この場面は特に対応するシーンはないものの、みんなでストーリーを考えているときに結愛の寄港先の街というイメージからは変更されている。


・F:様々な楽器のソロリレーで進む。まだ前までの弾んだリズムを受け継ぎながら、少しずつ落ち着いていく。マードックが家族へ向けて手紙を書いている場面で、ソロを手紙に書かれる話題と捉え、奏者が変わることで話題の転換を表現している。前半は航海の楽しさを描き、後半からこの後にかけては家族への思いを綴っている。

 →結愛がソロを務めたのはこの場面だ。ソロリレーの最後として家族を想うマードックの気持ちを表現しようと模索していく。マードックの優しさを全面に表現する結愛に対して、しぐれは強さも併せ持つ演奏をするなど、ソロの吹き方によって個性を際立たせている。


・G〜H:Fのソロから金管楽器、さらに木管楽器へとメロディが受け継がれていく。H前半ではフルートがAの主題をソロで奏で、家族への想いを募らせているイメージとなっている。Hの後半、カウベルの高い音が氷山の接近を警告し、連符のユニゾンによって静かな夜から一転し、氷山に衝突して空気が張り詰めていく。

・I〜J:Iではまだメロディもスラーなどが用いられている。しかし打楽器や金管楽器が激しさを増していき、Jでは木管楽器もアクセントやスタッカートが多用され、船内が徐々に浸水していく様子が描かれる。後半の二分音符で半音階に上がっていく音が事態の深刻さを物語る。マードックは必死に避難誘導を行うが、人々は我先に逃げ出そうと救命ボートに押しかけた。

・K〜N: 金管楽器が船に容赦なく流れ込む海水を表し、打楽器が緊迫感を増していく。その裏で木管楽器が十六分音符で人々がパニックになり慌てている様子を表現している。Mの全員で吹くフォルテッシモのロングトーンで船が真っ二つに割れ、その後のユニゾンであっという間に船が沈んでしまう。マードックは避難する客に直前まで書いていた家族への手紙を託して命を落とした。

 →沙奈絵が遅刻するシーンではこのHの後半からNにかけての合奏をすることで緊迫感を強調した。結愛は一連の出来事の後に自分と避難誘導を最後まで続けたマードックと比較し、「パートリーダーとしての責任、自覚」が自分にはあるのだろうかと自問する。


・O〜P:直前の激しさから一転し、ピアノソロ、オーボエソロによって船が沈没した後の静けさや悲しみが表現される。

→本作ではコンクールの演奏時間の都合上カットされている。


・Q:直前までの激しさから打って変わって静かな曲。タイタニック号沈没の報せに家族は悲しみに暮れる。そんな中、一通の手紙が届いて曲は最後の盛り上がりのためにクレッシェンドしていく。

・R〜ラスト:冒頭のメロディの再現となる。しかし最初よりも明るさや音圧が増し、金管楽器がファンファーレのようなメロディで音楽を盛り上げる。マードックの手紙に勇気付けられた家族は前を向き、世間は今後同じような事故が起きないように後世に語り継いでいく。

 →このラストの展開に直接紐づけたシーンがあるわけではないが、コンクールを終え、結愛たちは大学進学という未来に向けて新たに努力を重ねていく。明るい未来を歌う「マードックからの最後の手紙」と同じように、希望を抱いた終わりを描いた。



成果と反省

 全体的に私が体験したことを通して執筆していたため、コンクール前の吹奏楽部というリアリティを出すことができた。全員で演奏をよりよくするために考え、練習する。その過程で衝突することもあれば、歌ったりストーリーをみんなで思い浮かべたりすることで別のアプローチから団結を高めることもあった。これらは全て経験してきたからこそ書けた作品であると自負している。


 一方で吹奏楽部のことについて詳しくない読者にどこまで寄り添えるかというのは課題であった。この作品は一人称であるため、用語の説明をどこまで書くことができるかについてはかなり苦労した点だった。結果として、ストーリーには影響のない単語の解説はなるべく省き、読んでいてつまずく可能性のある場所だけは補足している。


 しかし、コンクールについての話題が増えるにつれ、やはり吹奏楽経験のない人には難しく読みづらい点もあったのではないかと反省している。また、経験則による描写が多く、読者には伝わらないということを判断できずに書いてしまった場面も多々あった。


 幾度かの修正によりそういった点は減らすことができたが、この作品を通して今後執筆するにおいて、読者目線の校閲を自分自身でできるよう意識していきたいと思う。

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船の行く先 明深 昊 @sola_16

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