第7話
三年生たちで集まって、楽譜を広げながら昼食。どこどこを合わせたいだとかここをこうしたいといった話がひと段落して、話題が雑談に切り替わっていった。
「ねーねー」
ふと、この前思ったことを共有したくて、ほとんど聞いていただけの会話の中に入っていく。
「曲名って『マードックからの最後の手紙』じゃん、この手紙って家族の元に届いたのかな」
「……え?」
思ったより反応が薄くて、思わずいろいろな言葉が続いてしまう。
「だって、静かなソロが続くところのシーンとかきっと手紙書いてるよね。事故に遭う前に書いた手紙って家族に届いたのかなって思って」
「考えたことなかったかも」
「えっでも曲になってるくらいだから届いたんじゃない?」
「船が海に沈んだのに……?」
「届いた方がロマンティックじゃん」
「それはたしかに~」
ああでもない、こうでもないと言い合っていると、何か思いついたように舞衣ちゃんが声をあげた。
「避難した人に渡したとか」
「あーあり!」
全員の納得の声がそろう。
「じゃあ最後の悲しいメロディから盛り上がっていくシーンは託された人から手紙が届いて喜んでるってことか」
私が呟くと、全員がうんうんとうなずいてくれる。今まであいまいだったシーンが鮮明になっていって、思わず鳥肌がたった。
「結愛って全部のシーンでそういうの考えてあるの?」
しぐれに聞かれて、なんとなくだけどね、と苦笑いする。
「ね、みんなで作ろうよ、物語!」
想像以上に舞衣ちゃんが乗り気になって、私にずいっと迫ってくる。
「え、私?」
「だって最初に考えてたのは結愛でしょ。結愛のなんとなく考えてあるものをみんなで形にしようよ。絶対楽しいって! ちょっと先生に話してくる!」
私の返事も聞かずに職員室に行ってしまって、みんなぽかんとしてしまう。
「行動力の塊……」
「じゃなきゃ部長なんてできないって」
「たしかに」
先生を連れて数分で戻ってきて、オッケーもらったよ、とブイサイン。先生ノリいいよなあと他人事のように考えてしまった。
合奏のために音楽室に集まってきた後輩たちをしり目に、黒板にイメージを書き連ねていく。楽譜に曲の展開ごとに振られているアルファベットを活用して、そのアルファベットごとにイメージを箇条書きにした。途中で黒板が足りなくなって、定期演奏会の舞台道具のあまりである模造紙を持ってきてもらう。しかし音楽室をいっぱいに使って合奏隊形にしてあるので、書く場所が足りない。
「椅子とか譜面台どかして床でやる?」
「時間かかるしいいんじゃないかな。ついでに歌練すれば文句も出ないでしょ」
私を無視してどんどん話が大きくなっていく。舞衣ちゃんが手をたたいて、練習中の後輩たちに指示を出してくれた。
楽譜だけ持って円になって座り、舞衣ちゃんと模造紙を持つ私が中心に立つ。
「今から私たちの『マードックからの最後の手紙』の物語を作ります!」
同級生たちがいえーい! とノリノリで盛り上げて、話を知らない子たちが困惑して目をぱちくりしているのを見て、思わず笑ってしまった。
「結愛、できる?」
うなずいて、私が今思い描いているストーリーを語る。ストーリーというよりは場面ごとのイメージ。漠然としたそれらを話し終えて、えっと、と考える。
「みんなにはこのイメージに追加したい要素とか、こうした方がいい、っていうアイディアを出してほしいです」
さまざまな意見が飛び交う。出航したあとの陽気な場面は寄港先の様子というよりは船内で乗客たちがダンスパーティーをしているんじゃないか、とか。他にも手紙は家族が喜ぶだけじゃなくて世界中でもう二度とこのような悲劇を起こさないように意識させるきっかけに……なんて案も出てくる。
みんな楽しそうに隣の人と話しながら考えてくれて、模造紙がどんどん文字で埋まっていく。
一通り話し尽くして、画びょうを使って全員に見えるように壁に掲示した。箇条書きで読みにくい部分もあるけれど、このくらいの方が「自分たちで作った」ような感じがしていいのかな。
「うん、楽しかった! じゃあこのまま合奏しようか」
嬉々として生徒に混じって意見を出していた先生がそう言って手をたたく。
急いで合奏の形に復元して、音出しで楽器を温めた。先生が指揮台の隣にあるキーボードでB♭の音を鳴らして、簡単にチューニング。
「そうしたらみんなで決めたストーリーを考えながら止めずに通すよ」
「はい!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます