第6話

「ただいまぁ」


「おかえりなさい。早かったわね?」


 お母さんに不思議がられて、あーうん、と返答に少し困ってしまう。


「ちょっと色々あって。明日からは普通にいつもの時間になると思う」


「そうなの。たまにはゆっくりするのもいいんじゃない」


 たしかに最近は休みなく一日中部活にのめり込んでいたから、こんなに自由な時間が多いのは久しぶりだ。練習の物足りなさを感じて楽器を持って帰って来たけれど、少しくらい休憩してもバチは当たらない、かな。


 それでもなにもしないというのも後悔してしまう気がして、いつものように合奏の録音を聴くことにした。


 合奏中は録音しっぱなしだから、中断してしまっているところはトリミング。歌を聴いてみると、普段楽器で聴いているのとはまた違った面白さを感じた。楽しさや悲しみのような感情がそのまま表れていて、みんながどのように考えながら普段演奏しているのかがわかる。


 それと同時に、普段よりも感情が伝わるのであれば演奏はまだまだ表現力が足りないということ。楽器を通すより歌の方が、と先生の言っていたことがよくわかる。


 それでも歌ったあとの合奏は今までよりも気持ちがこもっていて、ある意味今日は一番いい日だったのかもしれない、なんて思ってしまった。


 その合奏を最後まで聴いてから、最初まで巻き戻す。今日合奏してたところはタイタニック号が氷山にぶつかって沈没するまでの大事なシーン。


 金管楽器が激しく奏でるメロディの裏で木管楽器が連符を吹き続ける。金管楽器が水没していく船を表現して、木管楽器が逃げ惑う人々を表しているように見える。ここの連符はタンギングも運指も難しくてなかなかきれいに揃わない。特に打楽器のアンサンブルのあとは運指が鬼のように難しくて、クラパート全員で猛練習しているけれど……若干まだ誤魔化しがあるように聴こえた。


 マードックは船に積まれた救命ボートに避難する乗客を限界まで誘導し続けたという。彼はなにを思っていたんだろうか。家族にもう会えないと理解しながら、自らの仕事を最後まで全うするなんて私にはできない。どんな状況でも乗務員としての責任を果たそうとするマードックは、本当に強くてまぶしく見えた。


 私は『三年生、パートリーダーとしての自覚』を持って普段部活できてるのかな。意見はなかなか出せないし、パートリーダーだってきっとしぐれの方がうまくできただろう。


 そういえば、彼が直前まで書いていた手紙は家族に届いたのだろうか。勝手に届いた体で話を考えていたけれど、船が沈んでしまったのに手紙だけが家族の元に届くとは考え難い。


 でも届かないと曲になったりしないような気もするし、逆に書いていたかもしれない、という想像で描かれたのだろうか。


「届いているといいな」


 その方が救われる気がして、ポツリと呟いた。

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