第4話 余計なお世話
優と美咲が付き合い始めたのは高校に進学してからだった。
美咲によると、彼女は中学1年の頃から優のことが好きだったらしいが、優が中学2年の頃に同じクラスになった別の女子に惹かれ、その女子と交際するようになったので、一度は優との交際を諦めていたとのことだった。
諸事情によってその「別の女子」と中学卒業とともに別れることになった優は、なるべく顔に出さないようにしていたものの、実際にはかなり落ち込んでいた。
美咲は優がみんなの思っている以上に落ち込んでいることにいち早く気付き、「今度は私が優くんの心を癒してあげたい。3年前の恩返し」と言いながら積極的にアプローチをかけてきた。
優は、美咲と交際を始めるようになった経緯が、悲しいほど愛莉の時と似ているなと感じていた。きっと美咲と別れた時も、その美咲と付き合うきっかけになった「別の女子」と別れた時も、自分はよほど惨めで、思わず同情してしまうような状態だったのだろう。
そして、今の優は過去に2回あった別れの時とは比べものにならないほど疲弊していて、メンタルにも深刻なダメージを受けていた。
優は、もし今また誰かに「今度は自分があなたを励ます、癒す」といった趣旨の言葉を言われたとしても、今度は絶対にその言葉に流されたりしてはいけないと改めて自分を戒めた。
最後はロクなことにならないから。今後、誰と付き合ったとしても、男性としての魅力に欠ける自分はきっとまた同じような目に遭うだけだから。
美咲との別れは、愛莉との別れほどひどいものではなかった。大学進学後は遠距離恋愛になり、学業で忙しい美咲の中で優の優先順位が徐々に下がり、お互いが大学1年生の冬になった頃には自然消滅に近い状態になっていた。
医学部2年生になって、本格的に忙しくなってきた美咲は、医師免許の取得を目指しながら遠距離恋愛を続けることは難しいと判断した。そして、今は学業に集中したいという理由で優との交際を終わらせていた。
優はその選択が妥当なものだと考えていた。医大生は間違いなく文系の自分とは比べ物にならないほど忙しいだろうし、遠距離恋愛中の彼氏なんかよりも医師になるという夢を優先することは当たり前。
逆に自然消滅に近い状態を維持するのではなく、明確に「別れる」という選択をしてくれて、それをちゃんと伝えてくれた美咲は誠実だと感じていたし、そうしてくれたことに感謝もしていた。
優の性格からすると、美咲が別れを望まない限り、優から美咲に別れを告げることはできなかったはずだから。
優は、そもそもこれから医者になるはずの美咲と自分は釣り合わないとも薄々考えていた。
同じ港南学院高校の生徒同士ならお似合いだったかもしれないが、現段階で所詮自分は「私立文系」で、美咲は「医学部」。将来的にはおそらく「普通のサラリーマン」と「医師」になる。釣り合うわけがない。
結局、高校時代の美咲がそういう意図を一切持っていなかったとしても、美咲は優を踏み台にして羽ばたいていったのだ。そして優にとって、そのような経験をするのは初めてではなかった。
美咲と付き合う前の彼女で、優にとって初恋の相手でもあった「別の女子」もまた、美咲と同じように優よりも自分の夢を優先するという「正しい選択」をして、その夢を見事に叶えた女性だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
優は昼間から泥酔に近い状態で、ベッドの上でぐったりしながら昔のことを次々と思い出していた。
過去の出来事をすべてネガティブな方向に捻じ曲げながら思い出に浸っていた優がいよいよ「初恋の相手」のことを思い出そうとしていたその時、彼のスマホにメッセージ着信通知が届いた。
スマホを見る気力もなかった優は、通知を無視した。しかし、メッセージの着信はその後も何回も続き、それでも優から反応がなかったことに相手が痺れを切らしたのか。今度は電話がかかってきた。
優は愛莉のLINEはすでにブロックし、彼女の電話番号も着拒済みだった。そして今はなるべく誰とも関わりたくなかった優は、家族とごく少数の親しい友人を除くすべての連絡先のLINE通知を切っていた。
ということは、おそらくこのしつこいメッセージと電話は家族または本当に親しい友人から届いたもの。その場合、これ以上無視を続けたら心配した相手が彼の自宅を訪ねてくる可能性がある。
そう考えた優は、仕方なく電話に出ることにした。電話をかけてきた相手は予想通り、優の親しい友人、その中でも一番の親友と言っても過言ではない相手だった。
電話に出てすぐに「生きてるから心配しなくていいよ」と投げやりなことを言う優に対して、
「本当にサッカー好きだな、こいつは。でもこのタイミングでわざわざ俺を誘ったのは、どうしてもサッカーが見たいというより、俺の状態を確認して、気分転換もさせたいんだろうな」と、優は玲佑の意図を察していた。
しかし、玲佑の意図を理解はできても、今の優にとって玲佑の提案はありがた迷惑だった。彼が善意でやってくれていることを知っているのに、それでも今の優には親友の善意を受け入れられる心の余裕がなかった。
優は、「そんな気分じゃない」と素直に理由を伝え、玲佑の提案を断った。
しかし、玲佑は「そんな気分じゃないだろうからあえて誘ってんだよ。試合を見ている間は少しは他のことを忘れられるだろうし、スタジアムの雰囲気だけでもちょっと非日常という感じがするじゃん?だから今のお前にちょうどいいって」と言って諦めようとしなかった。
「いやダルいって、余計なお世話だよ」と思いながらも、優は、玲佑が自分のためにわざわざ誘ってくれていることはちゃんと理解していた。
そして、自分が過去に玲佑の人生を左右するような重大な「余計なお世話」をしていることを自覚している優は、渋々ながらも玲佑の提案を受け入れることにした。
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