3話「強敵」

 うお!?

 カマキリの鋭い鎌が俺の触覚をかすめる。

 めっちゃコエーぞ!!

 大きさ的にはゴブリンキングが一番大きかった。だが、大きさと強さは比例しないらしい。

 ゴブリンキング10メートル、ケルベロス2メートル、カマキリ1メートル。大きさだけ見ればゴブリンキングが最強だが、明らかにケルベロスの方が強かったし、このカマキリの方がもっと強い。

 なぜ強いって言い切れるのかって? それはモーションの差よ。

 ケルベロスの突進と爪攻撃は動きが大振りで余裕を持って回避できた。火球も同じ。あんな大振り攻撃、死にゲーの序盤ですらないヌルゲーだ。

 だがカマキリ、オメーはアウトだ。

 死ぬ瞬間って景色がスローモーションになったりするらしいが、それを生きてる内に味わうとは思わなかった。

 のんきに鑑定していた俺が間抜けだった。その時にはすでに鎌が振られていたらしい。ぶっ刺さる直前にチラッと見えて反射的に動けて助かっただけだ。動かなかったら昆虫標本のように貫かれていただろう。

 そしてこのカマキリがやべー理由がもう一つ。

 こいつ、飛べるねん。

 本能的に再び天井に張り付いた俺だったが、今はその場所に鎌が深くぶっ刺さり、それを抜こうとしてカマキリが踏ん張ってる状態だ。うんしょ、うんしょって声が消えてきそうな踏ん張り方してる真っ最中。

 攻撃を加えるなら今がチャンス! これは千載一遇のチャンスだ!

 おりゃぁぁぁーーー!

 激しい羽音と共にカマキリの背中に張り付く。

 カマキリは1メートルもある化け物だが、俺も30センチはありそうな化け物ゴキちゃん。隙だらけな相手に張り付き、ゼロ距離攻撃を加えれば十分勝てる!!


「キィーーー!!」


 カマキリが悲鳴を上げる。

 誰だって巨大ゴキちゃんにくっつかれたら悲鳴上げるわな。人間だったら失神してるわ。

 だが悲鳴を上げるだけ済むと思うなよ! お前はここで狩られるんだ! 死ねぇ!!

 ペチペチペチペチ——。

 俺は無防備な背中めがけて前足二本を使って必死に攻撃する。

 ペチペチペチペチ——。

 ふざけてないぞ、俺は殺す気で攻撃してるんだ。殺す気で前足を振り上げ、首筋や急所っぽい箇所を必死で攻撃してるんだ。


「キィーーー!!」


 変わらぬ絶叫、無傷なカマキリ。

 やべー。俺の攻撃力ってゼロじゃね?

 そもそもゴキちゃんの攻撃ってなによ?

 ちょっと整理しようか。

 よくいるクロゴキちゃん。あいつらはどうやって得物を仕留めてるのか。

 派出所にいる不良警官ほどじゃないが、俺もそれなりにゴキちゃんとは格闘してきたし、Wikiをみて勉強したこともある。

 答え:狩りはしません。わずかな隙間に生息し、何でも食べて数ヶ月を耐え忍ぶ、逃走に特化した掃除屋です。


「キィーーー!!」


 あかん、やっぱ攻撃力ゼロだわ。掃除屋にモンスター駆除を期待する方が間違ってる。

 俺に出来るのは張り付きの嫌がらせと、食われた後に食中毒を起こさせるぐらいだわ。いや、昆虫同士なら腹も壊さんか。

 つまり……俺に出来ることは何もねーってことだ。


「キッ、キッ——」


 あ、やべ、鎌が抜けそう。背中にくっついたまま鎌が抜けたらどうなるか?

 答え:壁に叩き付けられて潰されるか、振り落とされて鎌で貫かれます。

 あ、抜けた——。


「キィーーー!!」


 カマキリがもの凄い勢いで身体を振り、俺をふっ飛ばす。

 どうやら潰すのではなく、振り落としたうえで串刺しにして食すのをご所望らしい。

 俺って美味いのかな? ゴキちゃんの食レポなんて聞いたことねーから分からん。海外では食用ゴキちゃんとか普通に養殖されてそうだけど。

 俺は空中できりもみ状態になりながら、そんなどうでもいいことを考える。

 だってなー。これからの行動なんて考えるまでもねーもん。

 飛べるようになった瞬間、全力でこの場から逃走。それしかないじゃん。

 空中できりもみ状態なのに冷静に考えられるって……昆虫ってすげーな。人間だったら目を回して終わりだぞ。

 お、羽が動くようになってきたな。

 カマキリは俺の着地点でよだれを垂れしながら鎌を構えてる。射程圏内に入った瞬間、あの鎌でぶすりだ。あと二秒ぐらいかなー、ぶっ刺されて餌になるまで。まあ、一秒後には動けるようになるけど。


「キイ!」


 嬉しそうな鳴き声と共に鎌が振り下ろされる。

 ふ、来ると分かってればどれだけ速くても回避は余裕だ。ジャスト回避を練習したゲーマーを舐めるなよ!

 俺は寸前で鎌を躱し、カマキリの背後に移動。そのまま猛ダッシュで洞窟を駆け抜ける。

 これで一安心……じゃねー!?


「キィーーー!!」


 追ってくんな! 俺食ったら腹壊すぞ!!

 逃げ切れん。基礎スピードでは向こうが圧倒的に上らしい。50メートルはあった差があっという間になくなり、俺の横を鎌がかすめる。

 その鎌すげーな。地面や天井に何度もぶっ刺さってるのに全く欠けてねーぞ。どんな硬度だよ。もしかしてコイツ、かなり高レベルなモンスターなんじゃ——。


「キッ!」


 肯定されてしまった。

 俺もコイツも昆虫なせいか、鳴き声のトーンで軽い意思疎通が可能になっている。

 昆虫すげー。原始時代以前から存在してるはずだわ。人間なんて雑魚だね雑魚。まあ弱肉強食が全ての世界っぽいので俺は興味ねーけど。


「キィー!」


 あ、ですよね、俺も今はその昆虫だったわ。

 猛スピードの一方的な死闘が繰り広げられる中、ちょっと異文化交流してほっこりしてしまった。とにかく今はコイツをどうにかしなくては俺の昆虫生はあと数分で終わる。なにか逆転の手は……。


「キィ!」


 鎌の袈裟斬りを回避。


「キキィ!」


 ダブルスラッシュを回避。


「ギィ! ギィ!」


 ご立腹らしい。知らんがな。

 そんなにムカつくならどっか行けよ。


「キィィィィィ!」


 ん? そんな歓喜の雄叫びを上げてどうした……あ、あれは、俺の同胞たち——!!

 地面はもちろん、壁にも天井にもゴキちゃんが蠢いている。常人なら失神レベルの光景だろう。なんせ視界一面がモザイク状態だ。その数は計り知れない。

 あー、なるほど。コイツは餌場を見つけたから歓喜してるわけだ。

 同胞達がカマキリの鎌にぶっ刺され、団子状態でポリポリ食されている。カマキリはもう俺に興味をなくしたらしい。夢中で同胞たちを貪っている。

 ……助けるか?

 答え:ノー。

 なんで見知らぬゴキちゃんを助けなきゃならんのだ。もしかしたら俺の親族がいるかもしれんが、俺にとってはでかいだけの化け物ゴキちゃんにすぎん。

 つーわけで……さらばだ、同胞達よ! お前達の分まで生きてやるからなー!

 俺はモザイク空間を猛ダッシュで逃げ出し、洞窟の先に歩みを進めるのだった。


《経験値が規定に達しました。レベル1からレベル5になりました》

《スキルポイントを20獲得しました。保有スキルポイントは20です》

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