4話「竜種」

 どうでもいい同胞達の虐殺現場から逃げてすぐ、また天の声が聞こえてきた。


《経験値が規定に達しました。レベル1からレベル5になりました》

《スキルポイントを20獲得しました。保有スキルポイントは20です》


 またレベルが上がったらしい。

 だから何で?

 俺何もしてないよ?

 普通はモンスターとか倒したらレベルが上がるんでないの?

 うーむ、謎だ……って、もしかしたらこのゲーム、行動が経験値になるのか?

 それこそ初代ロマンシング・サーガだ。もしくはファイナル・ファンタジアⅡとか。

 剣を振ると腕力経験値が入る、魔法を使うと魔力経験値が入る、ダメージを受けるとHPが上がる。

 だとしたら……このゲームの場合、戦闘しただけでレベルアップのための総合経験値が入るとか?

 戦闘して、逃げ切って、戦闘終了。そこで初めて経験値が入ってレベルアップする……うん、普通につじつまが合う気がするな。

 それにしても、レベルアップとか進化とか、俺の見る夢は結構すごいな。夢のくせして結構完成度が高い。

 戦闘してレベルアップして進化してスキルを取得。普通に繋がってる。夢なんだからどっかで俺に都合の良い展開があってもいいと思うがそれがない。

 あー、スキルポイントMAXになんねーかなー。無理ならレベルマックスとかでもいい。それか超絶チートスキルがポンと手に入ったり。

 ……ねーの? 本当に? MOD入れてもいいんだぞ。多少の無茶なら何でも許す。俺の夢だし。

 え? 誰に言ってるのかって? もち天の声よ。

 悔しいが天の声がこのゲームの支配者っぽいし。常識的に考えて他人の頭にテレパシーを送ったり、進化させたりなんて、全くの赤の他人は不可能だろ。きっと天の声は俺の潜在意識が造り上げたこの世界の神なんだと思う。

 ねーの? チート状態。


《……》


 無視すんな、スピリタス喰らわすぞ。

 お前もスピリタスの恐怖は身をもって味わったはずだ。飛ぶよ、自分が誰か分からなくなるぐらいに。それでもいいのか?


《……》


 もうコイツは俺じゃねーな。主人格の俺に逆らうとは馬鹿な奴め。お前はもう俺じゃない、追放だ。後でざまぁ展開とかないからな。追放されたことを後悔しながら俺の陰に徹してるといい。


《……》


 さーて、こっからどうすかなー。

 キョロキョロ。

 上下左右、全部岩肌だな。しかもめっちゃ広い。

 30センチのゴキちゃんが猛スピードで移動したのに景色がサッパリ変わらん。

 こうなってくると洞窟じゃなくてダンジョンだな。

 逃げてる最中に分岐が何カ所かあったし、大ジャンプして縦穴を登ったり下がったりもした。これだけ移動して先が全く見えないってことは相当でかいダンジョンに違いない。少なくても序盤のダンジョンとは思えん広さだ。


「ガルルルル……」


 なんか真っ赤なティラノサウルスみたいなやつも闊歩してるし、人間なんて瞬殺されるだろう。

 なんだろコイツ。俗に言うレッドドラゴンとかかな? 翼はないけど、それ以外がいかにもドラゴンっぽい。多分だが、ゴブリンキングとケルベロスとカマキリが連合組んでもコイツには勝てないだろう。

 ズシン——ズシン——。

 足音だけで別次元の生物だって分かるわ。こいつが歩く度に地面が揺れてるしありえねー。揺れを感じた瞬間に大きな岩陰に潜んで正解だな。ナイス判断だ、俺。


「キキィ!!」

「グルルルル……」


 陰からレッドドラゴンを見送っていたら上からカマキリが降ってきた。俺を襲った奴とは別のカマキリだな。なんか2Pカラーって感じで色が違うし、両手の鎌が死神の鎌っぽくてめっちゃ強そう。きっとあのカマキリの進化した奴だな。

 どれどれ。両者のお手並み拝見といこうかな。


「ギッ……」


 バギ、ブチ、ブシャーって感じの効果音でカマキリの首が折れ、胴体が引きちぎられた。

 ゴング直後にワンパンKOって感じの試合展開だった。

 つえーよ、レッドドラゴン。マジもんのドラゴンなんじゃね、コイツ。


「ボリボリ、ボリボリ——ペロ——」


 ずいぶん美味そうにカマキリを食ってるな。物足りないのか、舌をペロペロ出して口の周りの血まで舐めてるし。

 ゴクリ……。

 ドラゴンがいなくなったら飛び散った肉片でも頂くか。掃除屋ゴキちゃんの本領発揮だ。死肉漁りこそ俺の出番だろ。ダンジョンは綺麗にしないとな、うん。

 ズシン——ズシン——。

 しばらくしてドラゴンの足音は聞こえなくなった。

 おっしゃ! これだけ離れればだいじょーぶ!

 カサカサ——。

 5センチほどの大きさに飛び散った肉片の一つに飛びつき、一気にガブッといく。

 モグモグ……うんめぇーーーーー!!

 なんじゃこれ!?

 A5ランクの牛肉とか目じゃねーわ!

 低く見積もってもA10ランクの旨さ!

 この小さな肉片だけで100万円ぐらいしそう!

 モグモグ……モグモグ……。

 あー、これまでの昆虫生で今が一番幸せだわ。俺が魔王になったらカマキリの養殖場でも作って毎日カマキリステーキを食う。牛でも豚でも鶏でも魚でもない。俺の国の特産品はカマキリで決定だ!


《経験値が規定に達しました。レベルが5から10に上がりました》

《スキルポイントを30獲得しました。保有スキルポイントは50です》

《規定のレベルに達しました。進化可能です》


 モグモグ……お、レベルアップきた……モグモグ……進化可能かー……モグモグ……。

 クソどうでもいいレベルアップアナウンスを聞きながら、俺は至福の時間をじっくり味わう。


《進化先:グレーター・ブラッタニクス or ミミクリー・ブラッタニクス》


 全部ゴキちゃんじゃねーか……モグモグ……。


《特殊進化条件を満たしました。アベラギウムに進化可能です》


 モグモグ……ん? 最後、なんつった? 特殊進化? マジで?


《……》


 ブラッタニクスが付かない進化先ってことはゴキちゃんじゃないってこと?

 アベラなんとかはゴキちゃんじゃない?


《……》


 まあ答えてくれねーよな。お前はそういう奴だ。

 モグモグ……ゴクリ。

 ふう、とりあえずごちそうさま。大変美味しゅうございました。

 さて、進化出来るみたいだけどどうすっかなー。

 前の二つはなし。ブラッタニクスが付いてる時点でゴキちゃん確定だし。どんなにカッコ良くなってもゴキはGでしかない。もし艶が増したりしたら嫌悪感が天井を突き抜ける。

 人間には効果的でもモンスターに通用しないんじゃ意味がねえ。ここはカマキリやそれを瞬殺するドラゴンがいるダンジョン。なので、ゴキちゃんを卒業してもうちょっとどうにかなりたい。

 うーむ……アベラなんとかか……。

 もうちょっとしっかり聞いておけば良かった。ブラッタニクスが二つ出た時点で諦めムードだったからなー……。

 ニクスのように名前詐欺の可能性もあるが、ゴキちゃんから抜け出せるチャンスかもしれない。マジで悩むわー。

 こういうときは「鑑定」で進化先の情報とか調べられたら最高なのになー、なー、なー……出来ないの?

 いや、ここは俺の世界だ。全ては俺次第。クソスキルでも集中すればなんとか……アベラ、アベラ、アベラ、アベラ————。


『竜種』


 !?

 キッターーーー!! キタコレ!!

 やれば出来るじゃん!

 最高だよ俺! サス俺!!

 え、マジで「竜種」? 竜種ってドラゴンのことだよな? さっきのアレのことだよな?

 え、まさかのチート展開? いきなりアレになっちゃうの、俺?

 ふふふふ……ヒャッハーーー!!

 うっほうっほ!!

 この世の春が来ちゃった?

 それとも秋?

 一周回って春が来ちゃった感じ?

 俺はなるぞ! 最強のドラゴンに!!

 おい天の声! アベラなんとかに進化だ!!


《承認しました。ブラッタニクスがアベラギウムへと進化します》


 アベラギウムっていうのか。うんうん、めちゃくちゃカッコイイ名前じゃないか。最強のドラゴンにピッタリだな、うん。

 お、身体がホタルのごとく光り始めたぞ。このまま熱っぽくなって、俺は晴れてゴキちゃんを卒業できるわけだな。

 あー、このあったかさが心地いい。ポカポカして……徐々にあったかくなって……サウナのごとき熱さになって……どんどん……どんどん……ちょ、ストップ! 熱っ!? めっちゃ熱い!? つーか痛ぇっ!!

 おいコラいったんストップだ! ゴキちゃん卒業の前に天国にいくわ!!

 あっつ! 痛ってぇ!! あかんこれ!! マジで死ぬ!?

 うっがぁぁぁぁぁぁーーー!!!


《アベラギウムへの進化が完了しました。レベル1になりました》

《スキルポイントを150獲得しました。保有スキルポントは200です》


 俺は「竜種」という単語に浮かれ、忘れていた。

 この世界は、優良誤認の名称詐欺がまかり通る世界なのだということを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る