第12話 余白の中で

何かが終わったあとほど、世界は静かになる。


 学校は変わらない。

 授業は進み、試験は近づく。


 光の玉座に座る兄妹も、その流れの中にいる。


「ねえ、最近さ」


 昼休み、妹が小さく言う。


「周りの大人、前より優しくない?」


「そう?」


 兄はパンをかじりながら首を傾げる。


「特別ってほどじゃないけど……

 前より、距離がある気がする」


「近づかれないってこと?」


「うん」


 それは、守られている感覚に近かった。

 だが理由は分からない。


 兄は笑って誤魔化す。


「成長したんじゃない?」


「それならいいけど」


 二人の会話は、そこで終わる。


 誰も“理由”を求めない。



 影の王座では、整理が続いていた。


「波及はありません」


 メイドの報告は簡潔だ。


「他国からの反応も?」


「沈黙しています」


 妹は指先で机をなぞる。


「完全に切れた?」


「ええ。しばらくは」


 兄は少し考え、言った。


「“しばらく”でいい」


「次を見てる?」


「うん」


 影にいる者は、常に次を見る。


 過去に執着しない。

 終わった出来事は、記録に沈める。


「学校は?」


「通常運転です」


「なら、それでいい」


 妹は小さく息を吐いた。


「……平和だね」


「そう思わせるのが、仕事だから」



 元担当教師は、もう学校にはいない。


 どこへ行ったのか、誰も知らない。

 噂すら、長くは残らなかった。


 ただ一つだけ、変わったことがある。


 彼が使っていた机。

 そこだけ、しばらく誰も使わなかった。


 理由は分からない。

 誰も聞かない。


 それでいいのだ。

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