第5話 十四杯の祝杯
「……やってられんわ、ほんまに!」
全ての機材を撤収し、ようやく病院を出たのは夜十時を回っていた。
広島姐さんの怒鳴り声が、凍てつく夜の空気を切り裂く。
「あたしら、自分らの持ち分はとうに終わっとったんよ! それを何? 段取りがめちゃくちゃじゃわ! 一日で十五台以上も設定させて、挙句に地図もなしで辺鄙な棟に放置? レディースチームじゃいうて、全然レディースじゃない仕事ばっかりじゃったわ!」
姐さんはぷりぷりと怒りながら、運営スタッフ(男)とAチームの有志男性陣を強引に引き連れ、まだ明かりのついている居酒屋へなだれ込んだ。
「お兄さん! とりあえず生ビール、14杯持ってきて!」
「えっ、姐さん、うちら合わせても12人っすよ……」 私が恐る恐る言うと、姐さんはギラリと私を睨んだ。
「ええんよ! 一台、二台、三台……って数えて、最後に追加されたあの僻地の台数の一部! それに、あんたが追いかけ回したあの兄ちゃんの精神的慰謝料! ついでにうちらの残業代が出んぶんの『気合』を足したら、14杯でちょうどええんよ! 飲まにゃやってられんわ!」
「よーし、飲もう! かんぱーい」
「「「かんぱーい!!!」」」
ジョッキのぶつかる音が、広島の夜に響く。
設定したパソコンの数。迷った回数。そして、飲み干したビールの数。
「14」という数字は、この三日間の、私たちの戦いの証だった。
翌朝、ひどい二日酔いの頭で、私は上司に電話した。
「……もしもし。山中です。あーし、もう一日だけ、広島で休んでいいっすか?」
報酬の数万円は、帰りの新幹線に乗る前に、百貨店で見つけた最高に派手な新作の口紅とつけまつ毛へと姿を変えた。
お助けマンを名乗る私の旅は、まだまだ終わらない。
••✼••
年が明けてから、ふと思い出して上司に訊いた。
「そういえば、あの変な旧字体の求人チラシ、どこに貼ってあったんすか?」
上司は怪訝そうな顔をして言った。
「……旧字体の求人チラシ? そんなもん、見た覚えないけど」
「え? あの変な、カタカナ混じりのやつっすよ」
「俺、年末スタッフに逃げられたから、ハナコさん助けてくれとは言ったけど」
首筋が、ぞわりと逆立った。私は、何を見たのだ。
迷宮と黒ギャルの祈り 柊野有@ひいらぎ @noah_hiiragi
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