第4話 空蝉(うつせみ)の思い出
彼女と会って何度か交流しているうちに、自分の音楽のインプットが自然に出来始めた。いわゆる、スランプに今まで陥っていたらしい、とそこで気づけた。
そんなスランプを抜け出すきっかけを作ってくれた彼女と付き合うのは、そこまで時間を要しなかった。とはいえ、レコード会社の人間とミュージシャンが表立って付き合うことはあまり良いとは言えなかったから、密かに付き合うことにした。
仕事では会うことはほとんどなかったが、もしかしたら自分の仕事に関わる機会もあるかもしれない。そう思うと、作詞、作曲もより一層頑張ることができた。
清佳は手が掛からない女性だった。
「会いたい」とあちらから言われても、こちらが忙しければ無理に会おうとはしない。放っておいても、時期を見て連絡をしてくれる。本当に素敵な彼女で、我が儘も可愛いものだった。
例えば、お揃いの指輪が欲しい。そう言っても、それを日常で付けてくれとは言わなかった。ファンのことも考えて、自分の存在を隠し応援してくれる。その姿は自分にとって、心地よい存在だった。
彼女の存在が自分の日常に入ってきても、それは自分の不快の範囲に入ることはない。これからも共にいてくれると思える存在だった。なのに……、どうしてだろう?
ー『何』を間違えたのだろう?
今、ここに彼女はいない。
後悔するところを探しても、今までの自分が彼女に出来ることはなかった。
他にも、彼女との思い出は『たくさんある』と心の底から言いたい。なのに、思い返しても、誰かに語れるエピソードなんてものは存在しなかった。
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