第3話 混濁した中の祈り

 清佳(さやか)と出会ったのは自分が停滞しているときだった。どんな音楽を紡いでも、誰にも届かない。動画を投稿しても、反応が得られなくなっていったときだった。 

 自分の周りにいたスタッフが違う人と過ごす時間が多くなることを見て、自分の価値が落ちていった。あのときはそう思いこんでしまった。


 外に出ることすら億劫。息を吸うことすら億劫。ご飯を食べること、お風呂にはいることすら面倒だった。

 当時の社長は自分に甘く、仕事はしたくないならしなくていい。そう言ってくれたので、今思えば、おいしい話もあったただろう。全てを断ってしまった。


 あの頃の自分は今以上に自分の価値は誰よりも低く、全てが妬ましかった。家にいて、ぶつくさ文句を言う毎日。

 自分以外の人が創った音楽をボロクソに言うことで、自尊心を保っていた。


 そんなときに、社長にたまにはパーティーでもと誘われた。そのパーティーで出会った女性の1人。


ーその1人が清佳だった。


 清佳は初めて会った時から、優しく慈愛に満ちていた。自分に興味津々で、俺が創った全ての曲を聴いてくれた。

 その中でも印象的に残っているのは、こんな台詞だった。


『「暮れへ」の曲、好きです。歌詞の「君が僕に向けた全てが 空へ向かっていく 鳥は鳴く」って部分が、私には自分の幼さを見つめるきっかけになって……。こんな風に誰かを見つめることが出来るのに、自分はまだまだなんだって思いました。この曲を創った人の中には、私が体験できない全てが詰まっている。そう感じました』

 

 彼女が、滑らかに語る姿は自信がなかった自分には救いだった。自分で作り出してしまった暗闇に目が慣れてしまった自分には、彼女が眩しかった。

 自分から連絡先を聞くことはプライドが邪魔して出来なかった。だからこそ、彼女から聞いてくれたときはすごく嬉しくて、家に帰ってから自分の無表情を恥じた。


 連絡先を交換しても自分から話題を振ることも出来ず、彼女から連絡がくれば返した。その返事は淡々としたものだったと思う。

 それでもやりとりは続き、いつしか、会いたいと思うようになった。


 その思いが彼女にも通じたのか、ご飯に誘われたときは自分が誘ったのかと勘違いするほどだった。

 彼女への思いは、徐々に膨らんできた。それは恋愛ではなく、混濁した自分の中の救い。


ー少しだけ見えた光。


 それを掴むために、彼女を利用しようとした。今、思えば、無自覚で彼女を利用した俺はクズなのかもしれない。

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