第3話 お茶会へのお誘い

「本当に、どうされたんですの? 式典の後のお茶会をキャンセルされるなんて、そんなに体調が悪かったんです?」

 部屋に戻ったエリザベートにジェーンが心配そうに声をかける。

「……そうじゃないけれど」

 それに具体的な返事もできないまま、エリザベートはドレスのままソファに倒れこんだ。

 エリザベートが動揺を現しても、式典はつつがなく進行した。


 とはいっても、アリスが登場し、王が言葉を残せば、後はそのまま締めくくられて終わるようなものだった。

  王もいつまでも遠縁の姫君など、かまってはいられない。だから、挨拶が終わればさっさと式典を終わらせて、通常の仕事に戻ってしまっていた。

「いや、なんていうか……えっとあのアリスっていう子がちょっとね」

「ああ、あまりに庶民臭くて気に食わなかったんですね」


 エリザベートもこの後はアリスとお茶会をして、親交を深め、行儀見習いについて話をする、という段取りだったのだが、その予定をすべて体調不良、という理由でキャンセルした。

 お茶会ごときで王子の婚約者が病気になって本格的に臥せってしまっては敵わない。

そう思ったらしい侍従たちからは、医者を呼ぶかどうかを聞かれた。だが、それにも生返事をして、なんとかエリザベートは自室に戻ったのだ。


「確かに他国との同盟のために使うための姫君とは言え、こんな風に王家の一員にされたら、困りますよね」

「王家の一員ね……一応はそういうことになるのかしら?」

 別にそういうことがないわけではない。過去の歴史でもノイシュタット王国ではよくあること。

 しかも今の王は愛妻家で愛人も持たない、と公言している王だ。ノイシュタット王国では妃に一途な王がわりと歴代でも多いが、今の王様も例に漏れず一途な王様であり、そのせいで子供がヴィルヘルム王子のみなのだ。

 だから今回のことも、遠縁の親戚を迎えただけ。伝統に従っただけに過ぎない。


「確かに血筋的には、王の妃も狙える立場ではありますけれど。でも、エリザベート様には容姿も気品もなにもかないませんし……」

「ちょっと待って、もう一回言って?」

 そう何とか何とかしようとしていたところに、ジェーンが追い討ちをかけてきた。

「え、容姿も気品も……」

「そうじゃなくて、その前! 王の妃って……そんなにあの子、血筋がいいの?」

 エリザベートは顔だけがばっと起こして、ジェーンに問う。


 ノイシュタット王国の妃になれるほどの血筋といえば、高官の娘であってもだいだいこの国を支えてきたものでなければ認められない。

 エリザベートも代々宰相を務めるアーデンベルクの娘だからこそ、王の妃に選ばれたのだ。

「ま、まあ、血筋だけなら……王族の親戚筋ですから。だからこそ、王も連れてきて教育するってことになったのでしょう? それに今は対外的に同盟強化したい時期ですし、そんな無理なことはいたしませんよ」

「……そ、そうね」

 それに何をこの姫君は当たり前のことを聞いているんだ、というような反応で返されてしまった。そうなるとエリザベートも思わず同意するしかない。


「……まあ、とりあえずはあのアリスっていう子とは関わらないから。できるだけお茶会とかもなしで、行儀見習いは……適当にしておけばいいわ」

 そういいながら、頭の中で算段する。

(とりあえずは、様子見かしら……万一ヴィルヘルム殿下がアリスに心を奪われたとしても……王になるまでは愛人も囲えないし、愛人の子供が王になるのは妃に子供が生まれなかった時だけ……となると、こちらはできるだけ疑われることなく、大人しくしておくに限る)

 夢を見ただけで生まれて来てから課せられていた使命を諦めてしまうのはおかしなことだが、あの夢はリアリティがあった。しかもその夢を見てすぐに、夢でエリザベートを処刑台で見送っていたアリスが現れた。

 これは普通の出来事ではない。だから慎重にならざるえない。


「ちょっとエリザベート様、それはさすがに……」

 ジェーンとそんなことを言っていると、扉をノックされた。

「どなたでしょうか?」

「なに? 今忙しいのに……適当に追い返しておいて、ジェーン」

 今は、何も考えたくないのだ。

 あのアリスとか言う女のこと、いろいろと考えなくてはいけないのに。


「体調不良で帰ってきたんですから、きっとヴィルヘルム殿下からのお見舞いのお手紙ですよ! ほら、ちょっとはしゃきっとしてくださいな!」

 不機嫌そうな声を出すエリザベートに対して、ジェーンはそうやって諫めると、すぐさま扉を開けた。

「はあい、ヴィルヘルム殿下からのお手紙ですか?」

 機嫌よく侍従からの言伝を尋ねるジェーン。そんなジェーンに、燕尾服に身を包んだ年若い青年は言いにくそうにいった。


「い、いえ……あの、ヴィルヘルム殿下経由で……その、アリス殿下からお茶会のお誘いのお手紙を預かっておりまして……」

「は?」

 その瞬間、エリザベートの口からは、その日一番の低い声が漏れ出していた。

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