終章 ナ

 私がケルキラに何かを言おうとする前に言葉は霧散してしまった。


 突如、象鉄汽車エレファントレインが音もなく消滅したのだ。


「貴様だったのか。ケルキラ」


「っ! ヨヤマァァァ!」


 ケルキラが吠えた先には、ヨヤマと呼ばれた、場違いの黒いタキシード姿の男が葉巻を口に、妖しい煙を身に纏い、こちらを見ていた。


「ジャコの石化は俺には長時間通じんぞ。あの晩の事を忘れたのか? せまーい、くらーいクローゼットの中で覗いてた景色を! はははは」


 嫌らしい高笑いを上げるヨヤマに、ケルキラは歯ぎしりをし、むき出しの殺意を向ける。


「お前だけは、お前だけは!」


 ケルキラは、私の絞首の縄を撃ち落とした、あの早撃ちを繰り出したようだ。


 そうなのだ。銃口が灼熱の空間に、刹那の鉄火と銃声を響かせるなのだ。


 ヨヤマは葉巻から悠々と煙を出し、ふんと整った鼻を鳴らす。何ともないの? 外れた?


 私が疑問を口にする前に、ヨヤマはケルキラに向けて煙と答えを吹きかけた。


「無駄だ。ケルキラお嬢ちゃんは頭が悪いようだから、冥途の土産に教えてやろう。俺の異力の前には、俺が認めた者しか煙の通過を認めないんだよぉ! それ以外は煙に呑まれて異次元の彼方さ! 貴様の母親のジャコのようにな! ははは! さぁ ケルキラを消して! 次は、お仲間の――」


 ああ、やってしまった……


 さようなら……


 犬……



 そして……


「何故だ! う、動けない! 煙の異力で奴の石化を認めず、遮断したはず! まさか! 仲間の方か! お前誰だ! まさか、俺と同じ日本の」


「あなたと一緒にしないで! 私は」


 ヨヤマから、何か違和感を感じる。私は違和感に気を取られ、足を止めてしまった。


「危ない! ヨヤマから離れるんだ!」


 ケルキラの叫び声に我を取り戻し、私は、距離を取った。


「ちっ、引っかからないか」


 ヨヤマはケルキラを睨む。


だ。私の母さんを奪ったあのがまだ動いているんだ」

 

 ケルキラは邪悪な生命が宿ったかのような煙を忌々し気に睨みつけた。

 

 ケルキラのおかげで違和感の正体も、突破も出来るけど…………

 

 ケルキラは私の手を引き、ヨヤマから逃げ出そうとする。


「一回体制を立て直そう。そうすれば、ヨヤマを倒せる。お前の異力いりょくが通じると分かっただけで十分な収穫だ」


 駄目だ。

 

 このヨヤマは奇襲じみた作戦を二度も許すような男ではないだろう。次はきっとこちらが狩られる。


 それに、私の記憶はもう……


 私の眼には焦りが滲み出ていたのだろうか? ケルキラは、私の眼を覗き込んだ後、銃に弾を込め出した。


「いや、この場でケリをつけるんだな? この場で! 私の因縁に! いいんだよな!」


 私は頷いた。


 煙が止まる。

 

 静まり返った灼熱の荒野を、噛みしめるように踏みしめて彼女がヨヤマに近づく。


 彼女の右目からは涙が伝っていた。何故?


 そして、彼女は何故左目がないのだろうか?

 

 あれ、私、熱射病かしら? 思考がまとまらない。

 

 私は男性を見る。

 

 彼は渇いた笑いを出すと、ぽつりとつぶやいた。


「じゃあな。ニホンジン。ニホンで待ってるぜ」


 彼の脳天に複数の銃弾がめり込む。


 彼はそのまま、煙と共に青空に消えてしまった。



 それは、不思議な静寂を余韻として残していった。




 銃を持った女性がこちらに駆けだして来た。


「ありがとう! あんたのおかげで私は、仇をとれた! 本当にありがとう!」


「い、いえ、お役に立てて良かったです。あの……」


「何かお礼をさせてくれないか? 是非!」


 彼女が片目の顔に満面の笑みを咲かせ、鼻息荒く近づく。

 

 何故だかつられて、私も口角が上がる。悪い気はしない。 

 

 そうだ。私は、欲しいものがあった。いや、今、出来たというのだろうか? まだ、思考がまとまらない。うまく言葉にできないが……とにかく


「では、一ついいでしょうか?」


「ああ、何でも!」


「わたしは誰でしょうか?」


「へ? ははは。変わったお願いだぜ」


「で、ですよね」


「実は、摩訶不思議なことに私も分からない! すまん!」


「い、いえ、ではこのご恩は忘れて貰って結構です。では」


「ちょっと、待ちなって」


「ぐえ」


 なんて怖い女性だ! 私の首輪を引っ張った!


「何処に行くのさ? 名前も分からないのに」


「え、ええと、では、あの、何処かいい場所はありますか?」


「はは、名前の次は場所が望みだなんて面白い恩人だ! 気に入った! うちの家訓はお礼と支払いは自分の体で済ますのが教えだから、お手伝いするぜ」


「そ、そんな強引に」


「なっに水臭いこと言ってんのさ! さぁさぁ、まずは世界樹の根元の街を案内するぜ! ってな。はは」


 彼女は陽気に笑うと、ガシャンと重たい音を響かす棺桶を担ぎ先を歩き出した。

 

 おかしな話だが、これが私と彼女の出会いだった。


 こうして、私の名を探す未開拓大陸での冒険が幕を上げたのだ。

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