二日目 夕方 メ

「取引の内容は?」

 

 私を見下ろす悪魔の表情は逆光で遮られよく分からないが、少なくとも笑ってないのは分かる。


「一つ、この計画の目的を教えて」


「言っただろ? 象鉄汽車エレファントレイン遊び! つまり強盗だよ!」


「私が聞きたいのは手段ではないわ。それだったら汽車を止めなくても、あなたと魔機導連筒銃マギドリングガンで十分よね? ただ、そこで、ハンドルを弾倉が空になるまで回して蜂の巣を作ればすむ話よね?」


「はー」


「何かしら?」


「嫌な眼だ。その眼をしてればあの時、金貨を使わずに輪っかに首を通してやったのにと思ってな」


「あら、どんな眼かしら?」


「私の奪われた左目と一緒さ。明日を夢見る安楽の光を信じる鬱陶しい眼さ。まったく、嫌な眼だ……」


 私は彼女に微笑み、口を開こうとする。


 が、その前に異力いりょくの反動が私を襲った。



 ああ、父との記憶を持ってかれた……次はママとの記憶かな。



 私は無意識に顔を顰めていたらしい。彼女が先に口を開いた。


「大丈夫か? 異力いりょくの代償か?」


「ええ、私の場合、記憶を消費するのよ。だから、早めに答えを聞かせてもらえないと、記憶を使い切って、あなたの計画も頓挫するわよ」


「――形見」


 彼女はそう呟くと、私の左目を、遺された右目で見つめる。


「私の左目には、母が遺してくれた義眼があったんだけどな、奪われたんだよ」


「誰に?」


「この象鉄汽車エレファントレインのどこかの客室で、葉巻を吹かす糞野郎さ。母親の尊厳も命も形見もそいつが私から全部奪ったんだ。だから、私はその恨みを晴らしに来たのさ。巻き込んで悪かったな」



 ああ、母親の顔が思い出せない……。


 私の故郷の記憶がもう……。



 私は脳裏に広がる絶望を隠すように、彼女に笑いかける。

 

「ふふ、謝るには早いわよ?」


「え?」


「私も手を貸すって事よ」


「人殺しはしたくないのにか?」


「お互い様でしょ?」


「は?」


「あなた言ったじゃない『いい位置だ』って、あれって、仇の糞野郎だけを撃とうとして狙いを付けたんでしょ?」


 そう、彼女の目線の先には豪華な外装が施された客車があった。


 魔機導連筒銃(マギドリングガン)の銃口も、そこに向けられている。


「本当に、嫌な奴だよ。お前は」


 彼女はそう呟くとこちらに駆け出してくる。


 私が彼女の時間停止を解除したのだ。彼女は懐からナイフを取り出し、ロープを一息で切り出して、私を線路から連れ出した。


 私は駆けだす彼女の後ろについて、ふと今更ではあるが尋ねる


「ありがと、あなた、名前は?」


「あ? いいだろ、今は」


「いいじゃない。絞首刑になる前に覚えておきたいの」


「ケルキラだ」

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