#3 Backbeat ―Akiho ―
当て馬といえば、黒髪ボブらしい。
私は、自分の髪型が、まさにそれだと気付いて、鏡の前でため息をついた。
小春が入部してから、冬真が少し、変わった気がする。
冬真は、小学校の頃からの同級生だ。家も近く、一緒に行動することも多かった。
でも、それだけ。
私は、冬真といると安心した。
冬真も、たぶんそうだったと思う。
冬真が近くにいることが、私には当たり前すぎて、冬真に彼女ができるとか、そういうイメージを、これまで一度も持ったことがなかった。
というか、持ちたくなかったんだと思う。
でも、小春が軽音部に入部してから、冬真はどこか変わった気がする。
どこ、と言ったら明確には言えないけれど。
周りの子は、全然変わらなくない?と言う。でも、私にはわかる。だって、今まで一番近くで、冬真を見てきたから。
小春は、素直で可愛い後輩だ。
こんな私を、慕ってくれている。
いつもニコニコ笑って、一生懸命に練習している。
そして、その歌声は、聴いている人を一瞬で魅了する。
小春の圧倒的な”主人公感”が、私にはとても眩しかった。
冬真は、小春と話す時、目が輝いている――気がする。
私に接する時とは、声色も違う気がする。
いつもポーカーフェイスの冬真だが、さすがに小春のオーラに、その才能に、惹かれているんだと思う。
冬真は、よく小春のことを褒める。
「小春の声って、やっぱり良いな」
それを聞くたび、私の胸に棘が刺さる。
小春は小春で、冬真のことをよく見つめている。
誰にでもにこやかな小春だが、冬真を見る時は、どこか切ないような瞳をしている。
一度だけ、小春が私に、冬真の話を振った。
「秋穂先輩と冬真先輩って、仲、良いですよね」
「ああ、うん。小学校から一緒でね。くされ縁ってやつ」
「そうなんですか。そういうの、いいなあ……」
会話はそれだけで終わった。
――ああ、この子、やっぱり、冬真のこと、好きになったんだ。
冬真、無愛想に見えて、優しいところあるし、お似合いかもな。
そう思うと、胸の奥がギュッと絞られる感じがした。
小春は主人公。
冬真は主人公の片想い相手。
そして、私は――冬真の幼馴染。主役ふたりの関係を加速させるための、当て馬だ。
小春は、私の存在に遠慮して、悩むかもしれない。であれば私は、二人が上手くいくように、いつか身を引かなければいけない。
――これ、少女漫画でよく見るパターンだな。
私はそう思って、ふっと笑ってしまった。
6月、新入部員も含めて、身内だけのプチライブをやることになった。
私達の軽音部は、部員が少なく、受験のため新歓ライブで引退してしまった3年生もいた。
女子は5人で、楽器も上手くバラけていたので、ガールズバンドを組むことになったが、男子が半端な人数だった。
「誰か、助っ人で来てくれる人、いないかなぁ」
「ベースがあと1人いたら、ちょうどいいんだけど」
そんな事を話していたら、部長が突然、金に近い茶髪の、圧倒的な”陽”のオーラの男子を連れてきた。
「こいつ、俺と同中の、
「よろしくお願いしまーっす!ベース初心者だけど、頑張るんで!」
彼は、満面の笑顔でそう言って、ペコリと頭を下げたあと、私たち部員を見回した。
夏樹先輩は、小春を見て、そのあと私を見て、手をひらひらと振って笑った。
「……小春、知り合い?」
「いえ……」
小春と私は、顔を見合わせた。
――また新しい登場人物が出てきたぞ。この人の役割は、なんだ?
私の頭の中で進行していた物語に、ひと筋の新しい風が吹き込んだ。
次の更新予定
当て馬は、誰だ。 紡 @tsumugu_monokaki
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