#2 Counter Melody ―Koharu―

当て馬には、自覚しているタイプと、自覚していないタイプがいる。

あたしは、自覚している――いや、してしまったタイプだ。


軽音部に入ったきっかけは、新歓ライブ。

中学まではピアノばかり弾いていたあたしは、高校ではちょっと、青春っぽいことをしてみたかった。


軽音部のライブを見た時、これだ、と思った。

特に心惹かれたのは、ガールズバンドでキーボードを弾いていた秋穂先輩の姿。

明るい髪色のメンバーの中、1人だけ黒髪で、真面目そうな人に見えた。


けれど、演奏が始まると、秋穂先輩の奏でる音は、バンド全体の、静かな中心となっていた。

時には、伴奏として他の音を支え。

時には、ソリスティックに音を転がして。

――かっこいいな。

そう思った。



軽音部に入る時は、ちょっとビクビクしていた。

何故なら、男子たちで組んでいたロックバンドの、一番後ろでドラムを叩いていた先輩が、なんだか怖かったからだ。


その人は新歓ライブの時、ニット帽を目深に被って、ブレることなく整然と、スティックをさばき、リズムを刻んでいた。

表情は見えないが、キラキラした他のメンバーを後ろで統率する、”黒幕”的な雰囲気を醸し出していた。

――あの先輩とは、あまり関わりたくないな。

そう思ったのに。


初めて軽音部の扉を叩き、秋穂先輩に言われるがまま、歌ってみた時。

一番を歌い終わると、入口に、体格の良い男の人がポッケに手を突っ込んで立っていて、心底びびった。

――あの、ドラムの先輩だ。


でも、その先輩は、あたしの事をじっと見て、静かな低い声で、こう言った。

「……めっちゃ、良い声だな」

その時、あたしの胸に、ズキューンと何かが突き刺さった。

あたしは分かりやすく、冬真先輩に、恋に落ちてしまったのだ。



でも、その恋は、前途多難であることが、すぐにわかった。

何故なら、冬真先輩は、秋穂先輩のことが好き――あたしには、そう見えたからだ。


冬真先輩は、基本、無愛想で口数が少なく、周りの人とふざけたりしない。いつも淡々と、ドラムを叩いている。

でも、秋穂先輩と話す時は、どこか、表情が緩むのだ。周りの子は、そうかなぁ?と言うけれど、絶対そうだ。


――だって、あたしは、入部してからずっと、冬真先輩を見ていたから。

微かな表情の違いが、あたしに話しかける時との声色の違いが、あたしにはわかる。

秋穂先輩は、冬真先輩を、冬真、と呼ぶ。

冬真先輩は、秋穂先輩を、秋穂、と呼ぶ。

帰る時間が重なれば、自然と一緒に帰っていく。

明らかに、他の人よりも距離が近い。

でも、付き合っていない。


あたしは、状況を完全に把握した。

冬真先輩と秋穂先輩は、たぶん、想い合っている。

きっかけがなくて、付き合っていないだけ。

あたしが、冬真先輩に、想いを寄せたところで――二人の絆の間には、きっと割り込めない。

あたしは、ぽっと出の、当て馬だ。


そう考えたら、すべて、腑に落ちてしまった。

でも、あたしは、諦めが悪かった。

当て馬なら当て馬なりに、いけるところまで頑張ってみよう――そう、舵を切ったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る