第4話『死者の行進』

 ラッパの音は凱旋の音のように華やかであったが、フリージアの周りを取り囲む人の表情は違う。門の方を見ていると、ある一人の男が後ろに大勢の人を連れて現れた。列の先頭に立っている男は一番上と言われるほどではないが、軍の偉い人と一目でわかるほどの豪勢な制服をきていた。腰にはセーバルを巻きつけている。フリージアは、その男が若く見えるのにも関わらず、杖を持っていることに疑問が浮かんだ。


その男の後ろの人間たちは、銃剣を肩に構え、誰一人道を違えることなく、誰一人歩幅を間違えることなく全ての人間が同じ動きをしながら歩いている。その”整いすぎている”と言う感覚がフリージアに恐怖を与えた。


その男たちの集団がフリージアたちの前を通ると、男のエメラルドの瞳とフリージアのアメジストの瞳がかち合った。目が合ったが、男の方がすぐに目を逸らした。しかし、彼女はその一瞬で分かった。


”彼はネクロマンサーだ”


手の甲にはやはりフリージアと同じく魔法陣が描かれている。彼自身はネクロマンサーということを隠してはいないようだ。


そしてその集団の表情を間近で観察をすると、目の焦点があっていないものであったり、目がカッと開いたものであったり、ましてや首から上がないものまで合った。フリージアはさらに観察を続ける。同じ動きをすると思っていたが、ところどころ集団の足の動きから外れていると感じたものの足をよく見てみるとそもそも足がないものや義足であるものが存在した。


何よりもその独特の匂いである。腐敗したチーズの匂いのような感じであり、その中にアンモニア臭が混ざっている。フリージア自身はこの匂いは鼻がひん曲がるほどのひどい匂いに感じた。さらに戦場帰り特有の血の匂いを纏っている。


フリージアは確信する。この軍隊は死体だ。フリージアはネクロマンサーのネクロマンシーを全くと言っていいほど把握できていない。しかし、この状態から推測するに死者の体を自由に操れる能力なのだろうか。


男が通り過ぎ、沈黙が流れた。まだ、死者の軍の行列は続いている。


「あれは、私の息子だよ。」


とお婆さんが指を差した先には腕のない死者がいた。お婆さんは悔しいのか怒りなのかその湧き上がる感情を整理できていないかのように話し始めた。


「私の息子は自慢の息子なのに、戦死したって聞いていたのに、死体が帰ってこなかったのさ。……あの子の最後は穏やかにと思っていたのに……ネクロマンサーというあの男は私の息子の遺体を使って、動かして!可哀想に!」


お婆さんのネクロマンサーという発言を聞いて、フリージアは思わず、背筋がピンとなり腰のあたりにある拳銃に軽く手を置いた。酒場の男たちも


「俺の友人も、そうだな。」


「俺はああはなりたくないね。死んだ後も自分の意思じゃなく動かされるなんて、とんでもねぇ屈辱だな。」


そう男たちは言った。さらにある男は


「ネクロマンサーなんていうのは人の皮の被った化け物だ。俺たちの死のあり方でさえも決めてしまうなんて。」


と言った。さらにそれに便乗するように


「ネクロマンサーなんていうのは、神話に救済だのなんだの書かれているけどな!あんなのは嘘なんだよ!」


と大きな声でいう。そして、先ほどのお爺さんがフリージアの方を観察するような目線で見ている。


「お嬢ちゃん、さっきから変だぞ。」


そう言われ、フリージアは息を飲んだ。


「あんた、手袋をしてるが、まさか、その手袋の下に魔法陣があるわけじゃないのかい?」


そう言われ、フリージアは咄嗟に席を立ち、逃げようとした。バレたらまずい。魔法陣は消せるものではない。手の甲に書かれた魔法陣はネクロマンサーにしかないものだ。身の潔白も何もフリージアが”ネクロマンサー”であるという事実は消えない。


席を立った瞬間にテーブルに拳銃があたり、鈍い音がした。その音に反応するように男の一人が咄嗟にフリージアのフードをつかんだ。


「お嬢ちゃん、手を見せてくれ。」


「嫌!」


フリージアは抵抗するように拳銃に手を伸ばす。するとその動きに気づいたように男はフリージアの手袋を無理やり取った。フリージアの手の甲に書かれた魔法陣が顕になる。男は毒物に手をつけてしまったかのように、フリージアを死者の軍勢の方へと投げ飛ばした。フリージアは咄嗟のことだったので受け身を取れることができずにその場にうずくまる。


不思議なことに死者の軍勢は、投げ飛ばされたフリージアを避けるようにして移動し続けた。


フリージアは体が打ちつけられた痛みから立てずにいると、ネクロマンサーを猛烈に批判した男がフリージアを上から足で押さえつける。そして男は護身用で持っていたと思われるナイフを取り出した。

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