第一章 死者の軍勢〜港町ヴィントモレンより〜
第3話『初めての街』
フリージアが最初の街に着いた。かなり長い道のりで、フリージアとアレントの住んでいたところは人との生活圏からだいぶ離れていることが分かった。フリージアはこの長い道のりの間、たくさんの夜を明かした。森の中での生活はフリージアにとっては迫害された時の記憶として今も鮮明に思い出される。森で寝ていると、不意に矢が背中に刺さるような感覚に襲われ、目を覚ますことが度々あった。目を覚ますとそこには何もない。ただ、暗い中で月の光が差し込んでいた。
夜、そのような感覚に襲われるたびに、フリージアは助けてくれたアレントのことを思い出した。アレントがいないことを受け入れてはいたが、一人になると不意に不安になってしまうことが度々起こり、家に戻りたい気持ちにもなったが、新たなネクロマンサーに出会い、そして手紙を届けるまでは帰らないことを心に決めていた。
最初の街の城壁の管理はとても緩く、フリージアは割とすんなり通してもらった。
「ようこそ!ヴィントモレンへ!可愛らしいお嬢さん!」
と門番の人に言われたので、フリージアはアレントに褒めてもらったらお礼を言うと言われていたことを実践し、
「ありがとうございます。」
と軽く会釈をして門の中へ入った。門の中に入ると、先ほどまで森の中を彷徨っていたのが嘘のようにどこまでも続く大きな海が坂の先に見えていた。フリージアは海の方向に向かって歩いた。
ここは港町のようで新鮮な魚を買う人や東洋の珍しい品々を売っている人たちが目に入った。多くの人々は笑いながら話をしている。フリージアは人が急に多くなった現状に少し不安を覚え、フードを深く被り、身につけている手袋を深く握った。
(まずは、サフランと言う名前から聞いてみよう。)
フリージアの他のネクロマンサーに関する情報の中で聞けそうなものといえば、サフランと言う名前ぐらいしかない。最初に新しく生まれたネクロマンサーを探しているやネクロマンサーの居場所を知っているかなどのようなことを聞けば、こちら側が怪しまれてネクロマンサーだとバレる危険があった。
アレントはフリージアに人に会う時に絶対にしてはいけないこととして、ネクロマンサーだとバレることだと語った。フリージアは迫害された過去があるのでなんとなくそのことについて理解しているので、絶対にネクロマンサーとバレることだけは注意を払わなくてはいけない。
海辺に続く道に開かれた大衆居酒屋のような食堂の前を歩いていると、フリージアは酔っ払っているであろう人々に声をかけられた。
「お嬢ちゃん!こっちおいで!奢ってやるよ!」
そう言われ、
「ありがとうございます。」
とフリージアは返し、男たちの元へと向かうと、その男の人たちは自らフリージアを誘ったのにも関わらず、目を丸くして驚いていた。フリージアが流石に印象が良くないだろうと思い、フードを脱ぐとさらに驚いた顔をされた。
「……驚いた、別嬪さんじゃねえか!」
「フードをかぶってても綺麗な髪が見えてたぜ!」
「あんた、ここの地方の人じゃねえだろう。ここの地方の女は誘っても、来ねえんだよ。」
「……黙って去るか、昼間から飲みやがってみたいな冷たい目つきでこっちもみてくるんだよ。」
そう言って男の人たちは木製のジョッキでビールを飲み、大声で笑った。フリージアが話さなくても会話が進んでいく。フリージアは途端に居心地が悪いと感じ、この人たちの誘いを他の女の人たちが断る理由が分かった気がした。
「あんた、一人かい?」
「はい。そうです。」
「珍しいねぇ。女が一人旅なんて。何しにここまで来たんだ。」
そう言われ、チャンスだと思ったフリージアは
「あの、サフランと言う人物を探しているのですが、知りませんか?」
と男たちに質問を投げかける。
「サフラン?知らないな。」
「サフランっていえば、アジアの人間っぽいけどな。それ以上は分からないよ。」
「もしくは南東の方の人だな。ずっと南だけど、サフランっていう香辛料があるらしい。」
と答えた。さらに、近くの席で座っていた新聞を読んでいたお爺さんがこちらの話を聞いていたようで、
「サフランっていうのはこの地方では見ない名前だねぇ。」
と答えた。サフランという人物はこの街にいないどころか、この地方でも見ないそうだ。フリージアの旅路はまだ長くなりそうだ。フリージアとしてはネクロマンサーの生まれた噂などを聞きたいが、リスクがある。フリージアは今すぐにでもここを立ち去りたいと思ったが、
「その女は魔女だよ!」
とお婆さんが怒鳴った声が聞こえた。
(バレた……!)
そう思い、思わずマントの下にある拳銃を握りしめる。すぐにでも立ち去ろうかと思ったが、そのお婆さんがまた叫ぶ。
「サフランって女は、男を騙して殺すのさ!」
「おいおい、婆ちゃん落ち着けって。」
と男が宥める。しかし、そのお婆さんはさらに叫んだ。
「どうして、サフランって女を探しているんだい!」
「手紙を届けるためです……。」
フリージアは萎縮していった。フリージアがネクロマンサーとバレなかったことは幸いだが、そのお婆さんの怒りが収まらないことによってフリージアも攻撃の対象となったのだ。
「手紙ぃ?その手紙の送り手は男だろ!」
「そうですけど……。」
「誘惑されたんだよ!その男は!どいつもこいつも!そんな手紙届ける必要なんてないさ!」
お婆さんはさらに攻撃的になり、周りの人々が騒ぎを聞きつけたようで集まってきた。フリージアが意を決して、
「この手紙は故人、亡くなった人の…!」
手紙ですと言おうとしたところで、大きなラッパの音が鳴った。そのラッパの音で、先ほどまでビールを飲んでいた男の人の手が止まり、お婆さんも怖がった様子で、ラッパの音が鳴った監視塔の門の下を眺めていた。ある男の人がフリージアに小さな声で囁く。
「お嬢ちゃん。今から見る光景にびっくりするんじゃないぞ。」
そう言われ、フリージアは息を飲んだ。
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