第71話 魔物を読んで
大沢在昌氏の『魔物』が持つ、都会の闇に潜む「人ならざる悪意」と「ハードボイルドな孤独」のトーンを織り交ぜながら、変美の次なる歩みを描きます。
平成22年10月に著者が読みました。
主人公の大塚は徳重聡が良いと思います。
覚醒の挽歌:新田の要塞へ
唐桶刑事の制止を振り切り、変美は夜の帳へと消えた。
彼女の足取りは、死を経験した者特有の、重力を感じさせない不気味なほど滑らかなものだった。
「唐桶さん、今の私にはわかる。宇宙の異臭など、今はどうでもいい。……まずは、この肺に溜まった**『裏切りの残臭』**を吐き出さなければならないの」
彼女が向かったのは、邑楽の山中に隠された「新田の秘密要塞」。かつて新田一族が、禁忌の実験を繰り返していたとされる廃工場跡の地下だ。
■ 潜入:五感を越えた「死の探知」
要塞の周囲には、新田輝の亡霊が使役する「悪意の残滓」が霧のように立ち込めていた。常人であればその精神汚染だけで狂い死ぬ濃度だが、不死身となった変美には、それが**『極上の標識(マーカー)』**にしか見えなかった。
鉄錆と腐敗の臭い:警備兵(新田の私兵)の配置。
オゾンと火薬の乾いた臭い:自動迎撃システムの電磁トラップ。
そして……奥底から漂う、慎の『震えるほど清純で、それゆえに残酷な若者の匂い』。
変美は、襲いくるサイボーグ兵の首筋を、まるで見えていないかのような動きで正確に切り裂いていく。返り血を浴びるたび、彼女の傷口は瞬時に塞がり、その肌は磁器のように白く輝きを増していった。
「……ふふ。殺されるたびに、あなたの匂いが愛おしくなる。慎、これが親子の『絆』の形なのね」
■ 邂逅:黄金の座薬と亡霊の哄笑
最深部。そこには、巨大なカプセルの中で眠る慎と、その傍らで揺らめく新田輝の亡霊がいた。
亡霊の手には、まばゆい光を放つ**「真・黄金の座薬」**が握られている。
「よく来たな、変美。一度死んで、新田の血の真理に到達したか。だが、その不死の力……息子である慎の『純粋な悪意』を燃料にしなければ、長くは持つまい!」
輝の亡霊が座薬を慎の額にかざすと、慎の目が見開かれた。その瞳は濁り、母への愛は完全に**『支配欲という名の刺激臭』**へと変質していた。
慎が手をかざすと、空間が歪むほどの衝撃波が放たれる。
しかし、変美は避けなかった。
■ 決戦の果てに:ドラクエウォークの終止符
ドゴォォォン!
変美の右肩が吹き飛ぶ。しかし、その断面から溢れ出たのは血ではなく、**『清らかな無の蒸気』**だった。蒸気が瞬時に肉体を再構成し、彼女は一歩、また一歩と慎に歩み寄る。
「慎、おやすみなさい。……この匂いを、覚えていて」
変美は、自分の指先を慎の鼻先に突き出した。そこから放たれたのは、新田一族が最も恐れる**『真実の沈黙の香り』**。
輝の亡霊は悲鳴を上げ、黄金の座薬と共に霧散していく。慎もまた、深い眠りへと落ちていった。
結末:そして
静まり返った要塞の中で、変美はスマートフォンを取り出した。
画面には、ドラクエウォークの「メガモンスター:新田輝(亡霊)」討伐完了の文字。
「……こころ、Sランクね。でも、まだ足りないわ」
背後から唐桶刑事が現れる。
「変美……終わったのか」
「いいえ、唐桶さん。これは始まり。地上から『新田の呪い』という悪臭の一部を消しただけ。……CIAの連絡を受けて。宇宙ステーションに漂う『エイリアンの異臭』……。それは、この地球の悪が宇宙へ漏れ出した『膿』の匂いよ」
変美の瞳が、夜空に輝く星を見上げる。
彼女の鼻は、すでに成層圏を越えた先にある、**『宇宙的規模の腐敗臭』**を捉えていた。
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