第63話 新たなる悲劇

 鎌倉での死闘を終え、新田一族の隠し金庫から一枚の古びた地図を手に入れた変美。しかし、そこに記されていたのは日光ではなく、遥か南、九州・福岡の**「筑豊ボタ山」**の座標だった。

​ そこには、慎一とは別に、幼い頃に生き別れたもう一人の兄、**大介だいすけ**が潜伏しているという。

 ■ 再会:博多、雨の埠頭

​ 変美は唐桶刑事と共に博多へ飛んだ。

「……匂うわ。この街の湿った空気の奥に、鉄二や新田とは比較にならない、**『火薬と、長年蓄積された血の錆びた匂い』**が」

​ 埠頭の倉庫街。そこに、逞しく成長し、地元の運送会社を装って父の謎を追っていた兄・大介がいた。

「変美か……。大きくなったな。慎一がやられたことは聞いた。だが、父さんの秘密には手を出すな。九州の極道、**『黒龍会』**は、新田のようなチンピラとは格が違う」

​ 大介の体からは、『潮風と、ディーゼルオイル』、そして妹を想う**『温かい石鹸の匂い』**がした。

 ■ 惨劇:黒龍会の牙

​ しかし、再会の喜びは一瞬で打ち砕かれた。

 倉庫を包囲したのは、黒龍会の若頭率いる精鋭部隊。彼らが放つのは、『冷徹な殺意と、高級な輸入タバコの匂い』。

​「逃げろ、変美! 唐桶、妹を頼む!」

 大介が拳銃を抜き、応戦する。しかし、相手はプロの暗殺集団だった。

​ パァン! と、乾いた銃声が響く。

​「……お兄ちゃん!!」

​ 変美の目の前で、大介の胸に赤い花が咲いた。

 崩れ落ちる大介。彼の体から漂い始めたのは、**『急速に失われていく生命の熱気』と、『最期まで妹を案じる、切ない涙の匂い』**だった。

 ■ 凶行:至近距離の処刑

​ 黒龍会の若頭が、倒れた大介の頭に銃口を突きつけた。

「……変美と言ったか。お前の鼻がどれだけ利こうが、弾丸の速度は嗅ぎ分けられまい」

​ 引き金が引かれ、二発目の銃声が大介の息の根を完全に止めた。

「……あ……あぁ……!!」

 変美は叫び声を上げることもできず、兄の亡骸から溢れ出す**『鉄分を大量に含んだ血の匂い』**に、五感を麻痺させた。

​「……お兄ちゃん……二人とも……私を残して……!」

 ■ 逆襲:絶望の嗅覚

​ 若頭が変美に銃口を向け直したその時、彼女の瞳が、血の涙を流しながらも恐ろしいほどの冷徹さを帯びた。

​「……あなた。今、その引き金を引いた指先から漂っているのは、**『一週間前に死んだはずの会長を毒殺した、即効性の青酸カリ』**の残り香ね」

​若頭の顔が凍りつく。

「なっ……なぜそれを!?」

​「あなたの内部抗争の匂い、隠しきれていないわ。今ここで私を殺せば、その事実は永遠に闇。でも、私はもう、その匂いを**『記憶の奥底』**に刻んだ。……唐桶さん、今よ!」

​ 物陰から唐桶刑事が放った閃光弾が炸裂する。その隙に、変美は大介が死に際に握らせた「黒いメモ」を掴み、海へと飛び込んだ。

 ■ エピローグ:黒い海の誓い

​ 冷たい博多の海を泳ぎ抜き、対岸に辿り着いた変美。

「……ふぅ……はぁ……。お兄ちゃん……。二人分の命、私の鼻に預けるわ」

​ メモには、日光東照宮にある「眠り猫」の真実を解くための、最後のピースが書かれていた。それは、父が九州の極道と裏で繋がっていたことを示す、最悪の証拠でもあった。

​「……マサ。もう、ポケモンGOもドラクエウォークもいらない。……今から私が嗅ぎ分けるのは、『父さんの罪の匂い』、ただそれだけよ」

​ 二人の兄を亡くし、変美はついに修羅の道へ。

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