第62話 臨時教師・匂坂の事件簿

 唐桶刑事の助けを借りて一命を取り留めた変美だったが、日光の深部へ向かう前に、解決しなければならない「悪臭」がもう一つあった。

​ 新田一族の資金源の一つが、鎌倉にある超名門私立校「聖マリアンナ鎌倉学園」に流れているという情報が入ったのだ。そこでは凄惨ないじめが横行し、それを隠蔽する代償として巨額の口止め料が動いている。変美は、いじめを食い止め、汚れた金の流れを断つべく、**「臨時教師・匂坂さきさか」**として鎌倉へ潜入した。

 ■ 潜入:潮風と「腐った教室」

​ 鎌倉の美しい海を望む校舎。しかし、変美の鼻は欺けない。

「……潮風の匂いの裏に、ねっとりと張り付く**『隠蔽された涙の塩分』と、『加害者たちが放つ勝ち誇ったような歪んだフェロモン』**。この学校、内側から腐り落ちているわ」

​ 変美が受け持ったクラスでは、ある一人の女子生徒が標的になっていた。主犯格は、地元の有力者の娘たち。彼女たちの手首からは、**「高級な香水」に混じって、「標的を追い詰めた時に分泌される、猛獣のような攻撃的な体臭」**が漂っていた。

 ■ 襲撃:殺意のプールサイド

​ 放課後。変美は呼び出された。場所は、人影のない屋内温水プール。

「先生、ちょっと鼻が利きすぎなんじゃない? 余計なことを嗅ぎ回る鼻は、水に沈めてあげたほうがいいわよね」

​ 加害生徒たちが雇った、ガタイのいい「用心棒」の男たちが影から現れた。

「……っ! あなたたち、**『金のために子供の使い走りをする、プライドの欠片もない脂汗の匂い』**がするわ!」

 ​変美は抵抗しようとしたが、不意を突かれ、数人がかりでプールの中へと突き落とされた。

 ■ 蹂躙:水底の絶望

​ バシャリ! という音と共に、変美の視界が青く染まる。

「……ごぼっ……! 強烈な**『高濃度の塩素』**が鼻を刺す……嗅覚が、麻痺する……!」

​ 水中で暴れる変美。しかし、一人の男が水中まで追いかけてきて、彼女の腹部に拳を叩き込んだ。

​「ぐふっ……!!」

​ 鳩尾みぞおちに突き刺さるような衝撃。肺に残っていたわずかな空気が、気泡となって水面に逃げていく。

 激痛と共に体が折れ曲がり、変美はプールの底へと沈んでいった。意識が遠のく中、水上で嘲笑う少女たちの声が、歪んで聞こえた。

 ■ 覚醒:死の淵からの「嗅ぎ分け」

​ 死の淵。変美の脳裏に、兄・慎一の遺言が響く。

(変美……お前の鼻は、まだ終わっていないはずだ……)

​ 彼女は目を開けた。激痛に耐えながら、水中で唯一「異質な匂い」を捉えたのだ。

 プールの排水溝の奥。そこから漂う、**『学校の地下に隠された、新田一族の隠し金庫の防錆剤』**の匂い!

​(……そこね。私を沈めたこの水ごと、あなたたちの罪を全部飲み込ませてあげるわ……!)

​ 変美は残った力を振り絞り、タイルの隙間に指をかけ、水面へと浮上した。

 ■ エピローグ:鎌倉の夕闇

​ ずぶ濡れになり、鳩尾を抱えて苦しげに咳き込む変美。だが、その瞳には再び鋭い光が宿っていた。

 駆けつけた唐桶刑事が、逃げようとする男たちと加害生徒たちを拘束する。

​「変美! 無茶しやがって。鳩尾をやられたか、息を整えろ!」

「……はぁ……はぁ……。唐桶さん……大丈夫よ。……鳩尾の痛みよりも、この**『悪事が暴かれた瞬間の、犯人たちの絶望の匂い』**……これこそが、最高の鎮痛剤だわ」

​ 変美は濡れた髪をかき上げ、プールの底に眠っていた「地下への入り口」を指差した。

​ 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る