第43話 足利武尊登場!
蝉の騒がしい声が、熱を帯び始めた朝の空気を震わせている。
ベッドサイドのデジタルアラームは午前7時を回ったところだ。俺、**
窓を開けると、早朝の瑞々しさを残した涼しい風が部屋に流れ込む。だが、その風には常に、この街特有の「重い匂い」が混じっている。
視線の先に広がるのは、陽光を反射してぎらつく東京湾。そして、その海上に浮かぶ巨大な要塞――臨海工場都市**「ビッグ・ディアマンテ」**だ。
■ 鋼鉄の島:ビッグ・ディアマンテ
そこは、日本最大の石油製造拠点。日本各地に触手を伸ばすだけでなく、アメリカ、ロシア、中東とも直接太いパイプを持つ、エネルギーの心臓部だ。
だが、その心臓は病んでいる。
「……また、プランクトンの色が濃くなっているな」
海面には、不自然なほど鮮やかな赤褐色の帯が広がっている。工場の排水に含まれる化学物質が変異させた、猛毒のプランクトンだ。
空気中に飛散する有毒ガスの数値も、年々上昇している。巷では、近い将来、歴史に残るような**「大公害」**が発生するという噂が絶えない。
■ 消えた父の背中
「親父……あんたはどこで何を嗅ぎ回ってるんだ?」
俺の父親、**
その父が、半年前に「ビッグ・ディアマンテの底に、消えない匂いがある」と言い残したきり、消息を絶った。
ふと、デスクの上に置かれた父の形見の古いコンパスを見る。
針は北を指さず、常に「ビッグ・ディアマンテ」の中心部を指して小刻みに震えている。
「大学生が首を突っ込むような話じゃないのは分かってる。……でも」
俺はシャツを羽織り、鏡の中の自分を見つめた。父譲りの、わずかな異臭すら逃さない鋭い鼻が、 今、ビッグ・ディアマンテから漂ってくる**『焦げたゴム』と『甘ったるい薬品』**が混ざり合った、破滅の予兆を捉えていた。
「ビッグ・ディアマンテ……。あの鉄の塊が、親父を飲み込んだのか」
武尊が窓の外を見つめ、無意識に鼻を啜ったその時だった。
背後のドアが、音もなく開いた。
「いい鼻ね。大学生にしては、その『絶望の匂い』への感度が高すぎるわ」
驚いて振り返ると、そこにはサングラスをかけた一人の女が立っていた。
手入れの行き届いたスーツ。その周囲には、宇都宮の土と、高級な煙草、そして微かなレモン牛乳の香りが混ざり合う、不思議な気配が漂っている。
「……あんた、誰だ? ここはオートロックのはずだぞ」
「そんなの、うちの亮(リョウ)に言わせれば『開いていないのと同じ』よ。……初めまして、足利武尊くん。私は変美(ヘンミ)。あなたの父親、軍司の『昔の仕事仲間』よ」
■ 継承される嗅覚
変美は部屋に歩み寄り、デスクのコンパスを手に取った。
「軍司が消える直前、私に連絡をくれたわ。『俺の鼻はもう石油の臭いでいかれた。後は、足利の血を継ぐ息子に託す』って」
「親父が……? じゃあ、親父の居場所を知ってるのか!」
「いいえ。でも、匂いの先ならわかるわ。……武尊くん、あなたも気づいているでしょう? この風に乗って流れてくる、プランクトンが腐ったような匂いの奥にある、**『人為的な死の香り』**に」
武尊は息を呑んだ。自分だけにしか分からないと思っていた感覚を、この女は平然と言い当てた。
「ビッグ・ディアマンテは、ただの石油工場じゃない。世界中の毒を宇都宮や足利、そしてこの東京湾に集約させる『巨大なゴミ箱』になろうとしている。軍司さんは、その底にある**『マスター・バルブ』**を閉めに行ったのよ」
■ 足利武尊、チームへの加入
ドアの向こうから、ガムを噛みながら亮と明が顔を出した。
「よお、坊主。軍司さんの息子ってからにゃあ、多少は動けるんだろうな?」
「亮さん、脅しちゃダメよ。彼はまだ大学生なんだから」
変美が武尊の目をじっと見つめる。
「武尊くん。私たちと一緒にビッグ・ディアマンテの心臓部へ潜りなさい。あなたの若くて鋭い鼻が必要なの。デジタルでは追いきれない、あの巨大工場の『嘘の匂い』を嗅ぎ分けるために」
武尊は拳を握りしめた。行方不明の父、迫り来る大公害、そして謎の「変美」という女。
すべてが、あの鋼鉄の島へと繋がっている。
「……分かった。あんたたちの仲間に加わる。その代わり、親父を見つけたら、一発殴らせろ」
「いい返事ね。歓迎するわ、武尊くん」
変美が微笑み、彼に一対の無線機を手渡した。
「作戦開始よ。舞台はビッグ・ディアマンテ。ターゲットは、海を殺し、空を汚す**『最悪の貿易(ビジネス)』**の首謀者!」
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