第40話 ドライブ・バイ・ダウンロード

 地下から引きずり出された男は、床に這いつくばりながら狂ったように笑った。

「……無駄だ。俺を捕まえたところで、もう『種』は撒かれた後だ」

​ 亮が男の胸ぐらを掴み上げ、その顔をライトで照らし出した。

「おい、こいつ……どこかで見たことがあると思ったら。数年前、宇都宮のITベンチャーを詐欺で追い出された**『名越なごし』**じゃねえか」

 ■ 名越の罠:ステルス感染

​「……名越。あなたの指先から漂う**『冷めたピザ』と『キーボードの隙間に詰まった執着』**の匂い。あなたが何を仕掛けたか、この鼻はもう分かっているわ」

​ 変美は、名越が持っていたタブレットの画面を鋭く見つめた。

​「……マサ、SNSの警告を出しなさい! 犯行はアカウント乗っ取りだけじゃない。本物の落とし穴は、あなたがさっき復旧させたはずの『公式サイト』にあるわ」

​「えっ、どういうことですか!?」

​「ドライブ・バイ・ダウンロードよ。名越は、大聖堂の高速回線を利用して、公式サイトを巧妙な『架空のミラーサイト』にすり替えた。ユーザーがサイトを閲覧しただけで、本人の自覚がないまま、背景(バックグラウンド)でウィルスファイルが自動的にダウンロードされる仕組みよ」

 ■ 宇都宮全域、感染の連鎖

​ 宇都宮中の人々が「アカウントが復旧した」という公式のお知らせを確認しようとサイトにアクセスするたび、目に見えないウィルスの種がスマートフォンやPCに植え付けられていく。

​「……匂うわ。この空間に充満する、数万台のデバイスが一斉に異常発熱を起こしている**『焦げた電磁波』**の匂い。名越、あなたは街全体のデバイスを『踏み台(ゾンビPC)』にして、さらなる巨大なサイバー攻撃を仕掛けるつもりね」

​「ハハハ! その通りだ! 俺のコードは、一度閲覧すれば最後、OSの深層に根を張る。誰にも止められやしない!」

 ■ 物理的な「元栓」

​「亮さん、明さん! ネットの海で追いかけっこをするのはもうおしまい。名越がサイトを配信している『物理的な発信源』を叩き潰すわよ!」

​ 変美は、名越の袖口に付着していた**「古い油絵具」と「地下特有の湿ったカビ」の匂いを辿った。

「……大聖堂の地下、さらに奥の『修復作業室』**よ。そこに、ドライブ・バイ・ダウンロードの元データを配信している大容量サーバーが隠されているわ!」

​ 亮がスカイラインを地下通路に滑り込ませ、明が長槍で偽装された壁を突き破る。

 そこには、キャンバスの裏側に隠された、異様な光を放つサーバーラックが鎮座していた。

​「……名越。どれだけ巧妙にデータを偽装しても、あなたの『居場所』だけは、この街の匂いが教えてくれる」

​ 変美が消火器をサーバーの冷却ファンへ向けた。

「ドライブ・バイ・ダウンロード……その悪意、ここで一気に凍結(フリーズ)させてあげるわ!」

​ 白煙が噴き出し、名越の絶叫が地下空間に響き渡った。

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