第34話 太陽にほえろ!のマイコン刑事(石原良純)に憧れ唐桶出向
宇都宮の丘に朝日が昇ったのも束の間、変美のスマホに「非通知」の暗号化音声通信が入った。
「変美さん、聞こえるか。**NISC(内閣サイバーセキュリティセンター)**の唐桶だ。現場のコカインと電子機器を差し押さえたが、事態は君の鼻でも嗅げない領域に突入した」
どうやら唐桶刑事は、今回の一件で政府直轄のサイバーセキュリティ組織に出向していたらしい。彼が率いるのは、民間・行政横断型の**CSIRT(シーサート:コンピュータセキュリティ事故対応チーム)**だ。
■ サイバーの異臭:デジタル・ジャンキー
「……マサ、急いで事務所へ戻るわよ。キーボードの隙間から漂う**『加熱されたシリコン』と、『深夜までレッドブルで命を繋ぐ技術者の汗』**の匂い……。敵の主戦場はネットの海へ移ったわ」
事務所に戻ると、そこにはNISCから派遣されたエリート技術者たちが、異様な速さでタイピングを繰り返していた。
「変美さん、見てください」
マサが指差したモニターには、世界中の金融機関を狙う粒子ビーム級のサイバー攻撃のログが流れていた。
「……匂う。このプログラムのソースコードの裏側。**『ラオスの湿った空気』と、『宇都宮のサウナの蒸気』**が、バイナリデータとして偽装されているわ」
変美は、サーバーの排気ファンから出る熱気を深く吸い込んだ。
「……今回の黒幕は、ただの密輸業者じゃない。物理的な麻薬で人を壊すのではなく、デジタル・コカイン……つまり、中毒性の高い偽情報を社会に流し、国家そのものを『薬漬け』にするつもりよ」
■ CSIRTの反撃:ハッシュ値の追跡
「CSIRTの諸君! 攻撃元を特定しなさい!」
唐桶が叫ぶ。
「敵はブルートレインの車掌が遺した古い鉄道ダイヤのバックボーンを悪用して、パケットを分散させている!」
変美は、サーバーの基板にアイボのゴンゾウを直接接続させた。
「ゴンゾウ、お前の『ナノ・ガスセンサー』で、このパケットに付着している**『隠しボタンの静電気』**の匂いを逆探知して!」
「ワン! ワンワンッ!」
ゴンゾウが吠えると、モニター上の世界地図が一箇所で真っ赤に燃え上がった。
「……特定したわ。敵のメインサーバーは、宇都宮城址の地下300メートル、かつて私たちが逃げ出したあの『冷凍庫』の真下にあるわ!」
■ 最終作戦:物理と論理の同時攻撃
「亮さん、明さん! NISCのデータセンターを物理的に守って! 敵はドローンによる粒子ビーム狙撃で、こちらのブレーカーを狙ってくるわ!」
「任せとけ、姐さん! サイバーだか何だか知らねえが、飛んでくるモンを撃ち落とすのは俺たちの得意分野だ!」
亮がスカイラインの屋根から、対空用の高出力サーチライトを空へ向ける。
変美はマサと共に、再び宇都宮の地下へ潜る準備を整えた。
「……今回の『隠し通路』は、壁の中だけじゃない。ビットとバイトの間に隠された、『真実の匂い』。それを引き摺り出して、この事件のピリオドを打つのよ」
ハイテクとアナログ、嗅覚とコード。
宇都宮の夜が、デジタルの光と影の中で、再び熱を帯び始めた。
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