第32話  黄金の三角地帯:熱帯の硝煙

 宇都宮の地下へと向かうはずだった変美たちの運命は、カバンに仕掛けられたGPSが発する「座標」によって、一気に東南アジアの熱帯の闇へと引きずり戻された。

​ 脳内に鳴り響くのは、あの軽快でスリリングなブラス・セクション。

 あぶない刑事サントラ『CRIMINAL NIGHT』。

​リズムに合わせて、亮がスカイラインのシフトノブを叩き、明がサングラスをかけ直す。舞台は東京湾から、国境の曖昧な無法地帯――**ラオス・ミャンマー国境の麻薬基地(ゴールデン・トライアングル)**へと飛んだ。

​「……マサ、エアコンを最大にして。この湿気、鼻が狂いそうだわ」

​ 変美は、麻薬Gメンから極秘に提供された**「海上取引」の情報を手に、ジャングルの奥深くを走る改造トラックの助手席にいた。

 周囲に漂うのは、むせ返るような「腐敗した熱帯雨林の葉」、「精製途中のケシの甘い毒気」、そして「密造された自動小銃の油」**の匂いだ。

​「姐さん、Gメンの話じゃ、今夜この先のメコン川流域で、宇都宮から流れたプルトニウムの資金と、ここらの最高級ヘロインが『物々交換』されるらしいぜ」

​ 亮が、トラックの荷台に積んだスカイライン(密輸品として持ち込んだ)のボンネットを叩く。

​「……匂うわ。川の向こう岸、大型の発電機が回っている。**『ディーゼル燃料の排気』に混じって、『日本の高級煙草』**の香りがする……。掃除屋の組織、日本側の幹部が直接来ているわね」

 ■ メコンの決戦:洋上取引の罠

​ 川面に浮かぶのは、重武装された数隻のボート。

 取引が始まろうとしたその時、変美が叫んだ。

​「マサ、ゴンゾウを放ちなさい! ターゲットはボートの底に張り付いたGPSの受信機よ!」

 ​ゴンゾウが泥水の中にダイブし、水中を加速する。

 同時に、亮と明がトラックからスカイラインを急発進させた。ジャングルの泥を跳ね上げ、ヘッドライトが敵を射抜く。

​「いくぜ、明! 派手な夜(CRIMINAL NIGHT)にしようぜ!」

「OK、亮! ターゲット確認、掃射開始!」

​ 亮が運転しながらワルサーを放ち、助手席の明がショットガンでボートの燃料タンクを狙い撃つ。

 ドォォォォン!!

 水柱と共に爆炎が上がり、ジャングルの静寂が「あぶない」リズムで塗り替えられていく。

​「……逃がさない。この火薬の匂いの中に、一人だけ**『宇都宮のしもつかれ』**を隠し持っている奴がいる」

​ 変美は、炎上するボートから飛び降り、逃走しようとする男の背中を指差した。

「……大貫社長の残党ね。あなたのその『郷愁の匂い』が、この地獄では一番目立つのよ!」

 ■ 宿命の交差点

​ 麻薬Gメンたちが突入し、基地は壊滅状態に陥る。

 炎上する麻薬倉庫を背に、変美はGPSを握りつぶした。

​「……これで終わりじゃない。この麻薬のルート、最後はまた宇都宮の『あの場所』へ繋がっている……。組織は、宇都宮をアジア最大の**『情報の給油拠点(バンカリング・ポート)』**にしようとしているのよ」

​「……ふっ、宇都宮も出世したもんだな」

 亮がタバコに火をつけ、紫煙をくゆらす。

「帰ったら、特大の餃子とビールで打ち上げだ」

​『CRIMINAL NIGHT』のフェードアウトと共に、変美たちは再び、すべての陰謀の源流である「北関東の要塞」へと視線を向けた。

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