第31話 終わらない追跡:仕掛けられたGPS

 宇都宮へと続く東北自動車道を走るワゴン車の中、変美はふと、膝の上に置いた自分の**「仕事用カバン」**に違和感を覚えた。

​「……マサ、車を停めて。路肩じゃなくて、次のサービスエリアの、なるべく大型トラックが並んでいる騒がしい場所へ」

​「え? どうしたんですか、所長。お腹空いちゃいました?」

​「いいえ。……匂うのよ。このカバンの底、革の継ぎ目から、**『リチウム電池の熱』と、『微弱な電磁波の焦げた匂い』**が」

​ サービスエリアの喧騒の中、変美がカバンの裏地をナイフで裂くと、そこには厚さ数ミリの最新型GPS発信器が埋め込まれていた。

​「これ……いつの間に!?」

 マサが目を見開く。

​「おそらく、あのエンジンルームよ。掃除屋の女を助け出そうとしたあの混乱の最中、彼女……あるいは彼女を監視していた『真の組織』の誰かが、私にこれを託した……あるいは『死の宣告』として植え付けた」

​ 変美がその発信器を鼻先に近づける。

「……この機械に付着しているのは、掃除屋の女の匂いじゃない。これは……もっと冷たくて、深い海の底のような……**『深海魚の脂』と、『潜水艦の密閉された空気』**の匂い」

​「潜水艦……!? 姐さん、それってまさか」

 いつの間にか背後に停まっていたスカイラインから、亮と明が降りてきた。彼らもまた、胸騒ぎを感じてワゴンを追ってきたのだ。

​「ああ。掃除屋の女は、組織の『末端』に過ぎなかった。この発信器が信号を送っている先は、偵察衛星だけじゃない。東京湾のさらに深く、海底に潜む**『動く指令室』**よ」

​ その時、変美のスマホに、一通の非通知メールが届く。

 中身は地図の座標一点と、一言だけのメッセージ。

​『宇都宮の地下には、まだ誰も嗅ぎつけていない「始まりの匂い」が眠っている。戻っておいで、変美。』

​「……所長、これって……」

​「誘っているわ。掃除屋の女を捨て駒にし、大貫社長を洛陽で消そうとした黒幕が、ついに私の鼻を試しに来たのね」

​ 変美は、GPS発信器を捨てなかった。

 あえてそれをカバンの奥に戻し、力強くワゴン車のドアを閉めた。

​「亮さん、明さん。悪いけど、宇都宮までのドライブ、もうちょっと延長になりそうよ。今度の舞台は、地上じゃない。……宇都宮の地下に広がる、**『巨大な迷宮』**の最深部」

​「ヘッ、面白くなってきやがった。お宝の匂いがプンプンするぜ!」

 亮がスカイラインのエンジンを爆音で轟かせる。

​ ワゴン車とスカイラインは、再び北へ向けて加速した。

 栃木県境を越えた瞬間、変美の鼻は、懐かしい故郷の匂いの奥に潜む、**「いにしえの岩盤が砕ける、冷酷な陰謀」**の匂いを、ハッキリと捉えていた。

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