第29話 情報の遮断:OSSの亡霊
霧の向こう側で、絶望に震える掃除屋の女が呟いた。
「……無駄よ。私が捕まっても、上空の偵察衛星がこの座標をロックし続けている。組織の第2波が、あと数分でここを更地にするわ」
変美の耳に、静止軌道上から降り注ぐ不可視の電波の圧力が届いたような気がした。
「マサ! 燃料拠点の管理棟へ走って! 主電源のブレーカーを物理的に破壊しなさい!」
「えっ、真っ暗になっちゃいますよ!?」
「いいから! 情報を繋がせないことが、今の最大の防御なの!」
マサが霧の中を全力で駆け、管理棟の配電盤をアイボのゴンゾウの放電と共に爆砕した。瞬間、拠点一帯の電磁波が沈黙し、衛星へのアップリンクが途絶える。
変美は、亮と明に向かって鋭く告げた。
「亮さん、明さん。あなたたちの『トレジャーハンター』としての目が必要よ。太平洋戦争中、**CIAの前身であるOSS(戦略情報局)は、破壊されたドイツ軍戦車のバラバラになった車体番号(シリアルナンバー)**の統計から、敵の総生産台数と補給限界を正確に突き止めた……。あなたたちも、この霧の中に散らばった『残骸』から、敵の正体を暴きなさい!」
亮はニヤリと笑い、墜落したヘリの尾翼の破片を拾い上げた。
「なるほどな、姐さん。……明、こいつの製造ロットを見ろ。米軍の流出品じゃねえ。この合金の配合と刻印の癖……これは宇都宮の『宮貿易』が、洛陽経由で北に流していた闇ルートの特注品だ!」
明も応える。
「こっちの工作員の銃、シリアルが削られてるが、この摩耗の仕方は……10年前のシンガポール動乱で消えたはずの横流し品だ。組織の規模が見えてきたぜ。こいつら、もう弾切れ寸前の『残り物』の集まりだ!」
断片的な情報の欠片から、巨大に見えた組織の「限界」が浮き彫りになっていく。
「……そうよ」
変美は霧の奥、ついに力尽きて膝をついた掃除屋の女の前に立った。
「あなたの組織は、OSSが戦車を数えた時のように、すでに統計的に『詰んでいる』わ。偵察衛星も、通信手段も、そしてあなたの誇りも……。この霧が晴れたとき、残るのはあなたの本当の匂いだけ」
女は、もはや抵抗しなかった。
「……負けたわ。……私の、負けよ。……ああっ、熱い……。誰か……この熱を……止めて……」
彼女の抑圧されていた情念が、冷たい海霧の中で、ついに涙と共に溢れ出した。
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