第19話 消えた貿易商の末路

 宇都宮の平和が戻ったのも束の間、変美のもとに衝撃的なニュースが飛び込んできた。

 宇都宮の再開発を裏で操っていた黒幕の一人、「宮貿易」の社長・大貫が、中国の洛陽空港で拘束されたという報せだ。

 ​

 ​変美は事務所のデスクで、国際ニュースの映像を凝視していた。

 画面には、やつれ果て、うなだれる大貫の姿。彼の腰回りからは、ビニールテープで無造作に張り付けられた**大量の覚醒剤(シャブ)**が押収されていた。

​「……信じられねえ。あのケチな社長、プルトニウムだけじゃ飽き足らず、自分自身が運び屋(ミュール)になってたのかよ」

 マサがレモン牛乳のパックを握りしめ、眉をひそめる。

​「いいえ、マサ。大貫社長のような慎重な人間が、そんな素人臭い真似をするはずがない。……彼の腰に巻かれたビニールテープからは、**『アルコール綿と、漂白されたリネン』**の匂いがしていたはずよ」

 ​変美の瞳が鋭く光る。

「掃除屋の女ね……。彼女は組織の口封じとして、大貫を罠に嵌めた。それも、麻薬犯罪に対して極めて厳格な、中国の洛陽を処刑場に選んだのよ」

​ ニュースは淡々と続報を伝える。

「被告・大貫に対し、洛陽市中級人民法院は一審で死刑を言い渡しました」

​「死刑……。一審でそこまで行くのかよ」

 唐桶刑事が事務所に足を踏み入れ、苦い顔でタバコを噛む。

「東武署もこの件で大騒ぎだ。大貫が消えれば、宇都宮城地下のテロ未遂事件の真相は、永久に闇の中だ」

 ​変美は、大貫が最後に発したとされる「隠しメッセージ」のコピーを取り出した。それは、彼が空港のゴミ箱に捨てた、一見何の変哲もない宇都宮の銘菓の包装紙だった。

​「唐桶刑事、この包装紙を嗅いでみて。ここには……**『古河の槍使い』が持っていたのと同じ、渡良瀬の湿った土の匂い。そして、『ギャンブラー・サキ』**がハマっていた、群馬の競艇場のインクの匂いが付着している」

​「何だと? まさか、大貫は死刑判決を予見して、さらなる『巨大な毒』をどこかに隠したっていうのか」

​「ええ。彼の貿易ルートは、宇都宮を起点に、北関東、そして海を越えてアジア全域に根を張っていた。彼が死刑になれば、その利権を巡って、またあの掃除屋たちが動き出す……」

​ その時、変美の鼻が、窓から入り込むわずかな風の変化を捉えた。

 それは、昨日までとは違う、**「乾燥した大陸の砂」と、「冷酷な法廷の床」**を思わせる、冷え切った血の匂いだった。

​「……マサ。パスポートの準備をして。次は宇都宮じゃない……洛陽よ。大貫の命が尽きる前に、彼の体に染み付いた『最後の真実』を嗅ぎ分けに行かなきゃ」

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