第11話 thought〜考え〜
掃除屋の女が鉄扉を閉ざした直後、背後から忍び寄った特殊部隊のスタンガンが変美たちの意識を刈り取った。
目が覚めた時、そこにはオリオン通りの喧騒も、大谷石の冷気もなかった。視界を占めるのは、目に染みるような蛍光灯の白さと、吐き気を催すほどの**「腐敗と消毒液が混ざり合った地獄の臭気」**。
そこは、組織が隠れ蓑にしている介護施設の最深部、**「汚物処理室」**だった。
聖域の裏側:無臭の女の「汚れた」拷問
変美とマサ、そして唐桶刑事は、タイル張りの床に無造作に転がされていた。
部屋の中央には、最新式の業務用排泄物処理機が唸りを上げている。
「……気が付いた? 変美さん」
部屋の隅、防護服すら纏わずに立つ矢田亜希子似の女が、冷徹に言い放った。
「あなたの鼻は、あまりにも高潔すぎる。だから、ここが一番相応しいと思ったの。ここは人間の尊厳が最後に形を変える場所……あらゆる悪臭が凝縮された、あなたの嗅覚にとっての処刑台よ」
女は、処理機の中に放り込まれた「あるもの」を指差した。
そこには、プルトニウムのコンテナの鍵と思われる銀色のチップが、汚物に塗れて沈んでいた。
「一分ごとに、この部屋の換気扇を止めていくわ。充満する**『アンモニアと硫化水素、そして死臭』**。あなたの鼻が、その過剰な情報量で焼き切れるのが先か、それともあなたがプライドを捨てて、その中に手を突っ込むのが先か……」
「……っ、う、うう……所長、鼻が、鼻がもげそうです……」
マサが涙と鼻水にまみれて悶絶する。嗅覚の鋭い変美にとって、この空間は文字通り、脳に直接ナイフを突き立てられるような激痛だった。
唐桶刑事が拘束を解こうと暴れるが、部屋には高濃度の芳香剤が噴霧され、悪臭との「化学反応」でさらに凶悪な異臭へと変貌していく。
「……ふう、ふう……」
変美は、激痛に耐えながら、あえて深く息を吸い込んだ。鼻血が滴り、床のタイルを汚す。
「無駄よ、変美。この汚物の中では、あなたの誇る『真実の匂い』なんて見つからない」
「……いいえ」
変美は、血の混じった笑みを浮かべた。
「……確かに、ここは地獄の匂いがする。でも、その奥に……混じり気のない**『北の潮風』**の匂いを見つけたわ」
「なっ……?」
「この汚物処理機……底に繋がっているのは下水道じゃない。昨年の襲撃時に作られた、海岸線まで続く**『亡命用の秘密トンネル』**。プルトニウムは、そこを通って運ばれている!」
変美の鼻は、拷問の苦痛を超え、臭気の断層の隙間に潜む「外気」を捉えていた。
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