第10話 ​宇都宮崩壊:オリオン通りの防衛線

 混沌を極めるオリオン通りの喧騒。その背後には、単なる極道同士の利権争いでは片付けられない、国家レベルの巨大な影が落ちていました。

​「燻り出しだけじゃない、これは……**『最悪の再演』**よ」

​ 変美が呟いた言葉に、唐桶刑事が眉を跳ね上げた。

 昨年、日本中を震撼させた北朝鮮による奇襲襲撃事件。あの時、日本の重要インフラは一時期麻痺し、宇都宮もまた、補給路の要所として戦火の瀬戸際に立たされた。

​「唐桶刑事、思い出して。あの襲撃の際、どさくさに紛れて消えたものがあるはずよ」

​「……まさか、米軍から極秘裏に輸送されていた**『プルトニウム』**のコンテナか!?」

​ 唐桶の叫びが、乱闘の怒号に掻き消される。

 役所広司似の組長が、松重豊似の男を突き飛ばしながら叫び返した。

「そうだ刑事! 茨城の連中が狙ってんのは餃子の皮の厚さじゃねえ。地下に眠る、あの『銀色の悪魔』だ!」

​ アメリカから日本へ、次世代エネルギーの研究用として到着したはずのプルトニウム。しかしそれは、北朝鮮の襲撃に乗じて何者かに強奪されていた。その隠し場所こそが、迷宮のような大谷石の採掘場跡だったのだ。

​「掃除屋の女は、データだけじゃない。プルトニウムを海外の組織へ売り飛ばすための『搬出口』として、この抗争を利用している!」

​ その時、オリオン通りのアーケードの天井を突き破らんばかりの爆音。

 地下劇場の入り口から、黒いタクティカルウェアに身を包んだ**「無臭の集団」**が飛び出してきた。

​「掃除屋の兵隊か!」

 唐桶が警棒を構える。だが、兵隊たちの中心に立つのは、やはりあの矢田亜希子似の女だった。彼女は混乱するヤクザたちの間を、まるで見えないランウェイを歩くかのように優雅に進む。

​「遅かったわね、変美さん。プルトニウムは今、地下の冷たい水に浸かって、新しい主を待っているわ」

​ 彼女の手には、起爆装置と思われる小型のデバイス。

 変美は鼻を衝く**「オゾンの焦げたような匂い」**——電磁パルス、あるいは放射性物質が放つ死の予感を嗅ぎ取った。

​「マサ、レモン牛乳を捨てなさい! 鼻を覆って!」

「えっ、あ、はい! でもこれ、もったいな……」

​「いいから! 今この通りに満ちているのは、ポマードの匂いじゃない。**『臨界』**の手前で震える、死の分子の匂いよ!」

​ 変美の叫びと同時に、掃除屋の女が不敵に微笑み、地下へと続く重い鉄扉を閉ざした。

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