第9話 激突:オリオン通り「餃子と納豆」の仁義なき戦い
大谷石の地下迷宮へ向かおうとする変美たちの前に、宇都宮最大の繁華街・オリオン通りが血と怒号に染まる「北関東の地獄」と化して立ちはだかりました。
大谷へ向かう最短ルートであるオリオン通りのアーケードに足を踏み入れた瞬間、変美は足を止めた。
「……止まれ。空気が、火薬と安物のポマードで沸騰している」
通りの先では、映画『孤狼の血』や『アウトレイジ』からそのまま抜け出してきたような、彫りの深い強面たちが睨み合っていた。
■ 栃木の虎 vs 茨城の龍
アーケードの西側を固めるのは、栃木を根城にする暴力団。その中心には、役所広司にそっくりな貫禄ある組長が、金のネックレスを揺らして立っている。
対する東側からは、松重豊をさらに凶悪にしたような風貌の男が、茨城ナンバーの黒塗りの車列を背に、納豆のように粘り強いプレッシャーをかけていた。
「おい、栃木の田舎もんが。大谷の利権、いつまで独占してんじゃ。半分よこせっつってんだよっ!」
「……茨城の腐れ納豆が。宇都宮の土は、一粒たりとも他県のもんには踏ませねえ。帰って干し芋でも食ってろ」
その瞬間、アスファルトを蹴る音と共に、両者が激突した。
怒号、殴打音、そして割れるショーウィンドウ。
「ひえぇぇ! 本物だ! 本物のヤクザ映画の撮影……じゃない!? 本物だ!」
マサがレモン牛乳を抱えて震え上がる。
「どけ! 公務執行妨害でぶち込むぞ!」
唐桶刑事が懐から警察手帳……ではなく、愛用の重たい警棒を引き抜く。だが、その唐桶の前に、寺島進に瓜二つの若頭が立ち塞がった。
「刑事さんよぉ、今日は東武署の出る幕じゃねえんだわ。これは『掃除屋』が仕掛けた、領土問題なんだよ」
変美は、乱闘の喧騒の中、鼻をヒクつかせた。
彼女の嗅覚は、暴力の匂いの裏側に潜む、極めて冷徹な**「導火線の匂い」**を嗅ぎ取っていた。
「……違うわ。これは抗争じゃない。**『燻り出し』**よ」
「どういうことだ、変美!」
唐桶がヤクザのパンチをかわしながら叫ぶ。
「この喧騒、この火薬の匂い……すべては警察と野次馬の目をここに釘付けにするための陽動。あの掃除屋の女は、この混乱に乗じてオリオン通りの地下通路から、大谷へ続く『データの運び出し』を行っている!」
変美の視線は、乱闘の真っ只中にある、古びた映画館の地下入り口へと向いた。そこからは、周囲の汗臭い男たちの匂いを拒絶するかのような、あの**「極限まで薄められた石鹸」**の香りが、微かに、だが確実に漂ってきていた。
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