第8話 ​釜川の惨劇と、鉄の規律

 釜川のほとり、街灯に照らされた凄惨な現場に、革靴の重い足音が響きました。


​「——どけ、素人が鼻を鳴らす場所じゃない」

​ 低い、濁った声。

 マサがレモン牛乳を噴き出しそうになりながら振り返ると、そこには古びたトレンチコートを纏った男が立っていた。

​ 

 ■ 新キャラクター:唐桶からおけ刑事

​ 所属: 栃木県警・東武警察署 捜査一課

​ 特徴: 常に不機嫌そうな顔をしたベテラン。ヘビースモーカーだが、現場ではタバコを吸わないのがポリシー。

​ 変美との関係: 彼女の「嗅覚」をオカルトと断じているが、その検挙率の高さには一目置かざるを得ない。

​「唐桶の旦那! またあんたの管轄ですか」

 マサが愛想笑いを浮かべるが、唐桶はそれを無視し、遺体の入ったビニール袋を検分している変美を睨みつけた。

​「おい、クソ鼻。この仏さんは、指紋も歯型も、DNAを照合すべき皮膚組織さえ、ある種の化学薬品で念入りに洗浄されている。東武署の鑑識がお手上げだと言い出しやがった」

​ 変美は答えず、遺体の首筋付近に顔を近づけた。

「……唐桶刑事。この遺体には、三つの矛盾した匂いがある」

​「あ?」

​「一つは、釜川の生活排水の匂い。二つ目は、強力な塩素系漂白剤。そして三つ目……」

 変美は瞳を細め、視線を西の空、大谷の方角へと向けた。

「**『1千万年前の海水』**の匂いだ」

​ 唐桶の顔が、わずかに引きつる。

「……大谷石か。あそこの地下水は、太古の海水成分を含んでいる場所がある」

​「ええ。犯人は、大谷の地下深く、地図にも載っていない貯水槽で遺体を解体し、洗浄した。それも、あの『掃除屋』の手口で」

​ 唐桶は忌々しそうに、火のついていないタバコを口に咥えた。

「あの矢田亜希子似の女か……。東武署のデータベースにも一切載っていない。まるで幽霊だ」

​「幽霊じゃありませんよ、旦那!」マサが割り込む。「彼女はデータを奪っていったんだ。宇都宮の再開発、その裏に潜む巨大な利権。このバラバラ死体は、その秘密に触れた見せしめなんですよ」

​ その時、変美の鼻が、唐桶のトレンチコートから漂う「ある匂い」を捉えた。

「……唐桶刑事。あなた、今日、オリオン通りの地下駐車場に行きましたね?」

​「……何だと?」

​「あなたのコートに、排気ガスに混じって、**『大谷石の粉塵』と、あの女が残した『白い蘭』**と同じ防虫剤の匂いが付着している」

​ 現場に緊張が走る。唐桶は沈黙し、変美の鋭い眼差しと、夜の釜川のせせらぎだけが辺りを支配した。

​「……フン、相変わらず気色悪い鼻だ」

 唐桶は背を向け、大谷石採掘場跡へと続く道を示した。

「来い。東武署のメンツは関係ねえ。この『掃除』は、俺たちの手には負えん。お前の鼻で、あの女の喉元を突き止めろ」

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