第3話:デバッグ完了、そして……

「はぁ、はぁ……っ! なんだ、何が起きてるんだ!?」

 宿の裏庭。アリオスが放ったS級奥義『天光斬』は、巨大な漆黒の「バグの穴」を通り抜け、背後の民家を真っ二つにした。

 肝心の穴には傷一つ付いていない。それどころか、穴は脈動しながら広がり、アリオスの足を浸食しようとしていた。

「物理も、魔法も効かない……!? ひっ、来るな、来るなぁ!」

 さっきまでの威勢はどこへやら。腰を抜かし、無様に這いつくばる「最強」のリーダー。

 周囲の野次馬たちからも悲鳴が上がる中、俺はポケットに手を突っ込んだまま、ゆっくりと穴の前に立った。

「おいカイト! 逃げろバカ! お前みたいな無能がいたところで——」

 アリオスの怒号を無視し、俺は腰のフラフープを指先で弾いた。

 

「……うるさいぞ、アリオス。お前らが暴れるたびに、座標のズレが酷くなる」

 俺はフラフープを腰にセットし、静かに腰を振る。

 シュッ、シュッ、と小気味いい音が夜の空気に響く。

「な……何を、遊んで……?」

 アリオスが呆然と呟く。だが、その言葉は最後まで続かなかった。

 

 ブォォォォォォォォン!!

 フラフープが加速し、青白い幾何学的なエフェクトが周囲に展開される。

 俺を中心にした「真円」が描かれるたびに、空間を浸食していた漆黒の穴が、まるで掃除機に吸い込まれるように縮小していく。

『——重大なメモリリークを確認。ガベージコレクションを実行します』

 脳内の無機質な声と共に、フラフープが眩い閃光を放った。

 

 一瞬。

 爆音も衝撃もなく、ただ「不自然な穴」だけがこの世界から消滅し、そこには元の平穏な石畳が戻っていた。

「……ふぅ。これでよし」

 フラフープを止め、手首にかけて肩を回す。

 静寂が支配していた。

 アリオスも、聖女も、宿のボーイも、見物客も。全員が口を半開きにして俺を見ている。

『デバッグ完了。報酬:純金貨50枚、およびスキル【高速回転】を付与します』

 足元にチャリンチャリンと降り注ぐ金貨の山。

 アリオスが震える指で俺を指さした。

「な、なんだその金は……! それに今の光はなんだ!? お前、何か不正(チート)を……!」

「不正? 失礼だな。これはただのフラフープだ。お前が『ハズレ』だと言って捨てた、な」

 俺は足元の金貨を一掴みし、腰を抜かしているアリオスの前にバラバラと落とした。

「……予言してやろう。これからこの世界は、もっとバグる。お前らの剣じゃ、街一つ守れない。どうしても助けてほしくなったら、俺の宿の前に並ぶんだな。……『フラフープ一回転につき、金貨一枚』で受けてやるよ」

 アリオスの顔が屈辱で真っ赤に染まる。

 だが、俺はもう振り返らなかった。

 背後で、今まで俺を馬鹿にしていた宿のボーイが「カ、カイト様! お荷物をお持ちします!」と血相を変えて駆けてくるのを感じながら、俺は優雅に宿の中へと戻っていった。

 金も、力も、名声も。

 すべては、この輪っか一つで手に入る。

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2026年1月2日 18:00
2026年1月2日 18:00
2026年1月2日 18:00

『無能として追放された俺のスキル【フラフープ】が、実は世界のバグを修正する唯一の神権でした〜回すたびに理不尽な世界が再起動される〜』 @furafupu

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