第4話 僕と彼のこと②
第一印象は『爽やかイケメン』。
写真なんかよりもずっと。一目惚れ…とまではいかないけれど、思わず見惚れてしまった僕。僕は面食いだったらしい。自分が『普通』過ぎて自覚がなかったけれど。
両家の顔合わせの後は、お見合いではお約束の「あとは若いお二人で~」と言われ、本当に二人きりにされてしまった。人見知りの上に親しい人以外とは上手く話せない僕が、戸惑いつつも自分がそういう性格である事を伝えると、彼―彰宏さんは怒ったり落胆する事なく受け入れてくれた。
僕がこんなだから会話はあまり弾まないと思ったけれど、彼が上手くリードしてくれたから、気まずい雰囲気になる事はなかった。気遣いがとても上手で相手に合わせてくれる人。これが彼に対する僕の第二印象。
場が和んで僕も詰まらずに話せるようになった頃、僕は気になっていた事…『一目惚れ』の真相を訊いてみた。
「笑顔が…とても素敵だったので…」
心なしか頬を染めて言う彼。
「笑顔?」
「はい。もちろん自分に向けられたものではない事は理解しています。隣にいらしたお姉様…でしょうか。女性と楽しそうに話をしながら控えめに微笑む姿が、とても素敵で、心惹かれたんです」
「あ……」
どう反応したら良いのか分からず戸惑う。家族以外にそんな事、言われた事がなかったから…。
「ぼ…僕、あの…素敵…だなんて言われた事…なくて…。家族は言って…くれますけど…。それに…Ωらしくなくて…。小さくも可愛くも…ないし……」
恥ずかしくて、話し方が戻ってしまった。
「可愛らしいですよ」
「………。え…?」
信じられない言葉が聞こえた気がして俯きかけていた顔を上げれば、柔らかな笑顔。
胸が高鳴ったのは気の所為ではないはずだ。
「貴方はとても可愛らしいし、素敵です。
私は最初、貴方がΩだとは分かりませんでした。かなり離れていましたし、ネックガードはワイシャツの襟に隠れて見えませんでしたから。ですから、貴方がΩだと知る前に惹かれたんです。その時は、どうやってお近付きになろうか考えたくらいです」
「で…では、いつ僕がΩだと…」
確か『Ωの息子』の僕にお見合いの申し入れだった筈…。
「あの後、すぐに合流した父に聞いたんです。父の会社は長峰とは契約していませんが、貴方のお父様は広く顔の知られた方ですから。父は言いました。「末の息子さんだろう。確かΩの」と」
そういう事か…と納得する。大々的に公表している訳ではないけれど、別に隠しているわけじゃない。長峰にα性の長男と長女、そしてΩ性の次男がいる事は、知っている人は知っている。
「Ω…と聞いて焦りました。初めて社交の場に出て来た長峰のΩの令息。あの場には多くのαがいました。長峰との繋がりが欲しい家は多い。きっと縁談の申し込みが殺到するだろう、と。そのほとんどが政略です。そんなの冗談ではありません。私以外の誰かが政略の為に貴方と結婚するなんて…。私は政略の為ではなく、『貴方自身』に惹かれたのですから。焦った私は父に正直な気持ちを話し、父から長峰社長に貴方とのお見合いの打診をしてもらったんです」
「そう…だったのですね…」
どうやら本気で『一目惚れ』っぽい…。
我が事ながら信じられない。僕の容姿に惹かれる人がいるなんて…。Ω性や政略を理由にされる方が、まだ納得出来るよ。家族には「琳は自己評価が低い」なんて言われるけれども。
「琳さんにとって私の気持ちは迷惑ですか?」
「…え…」
びっ…くりした…。いきなり名前を呼ばれて…。
「い…いえ、迷惑では…。今まで誰かに恋愛的な理由での好意を向けられた事がないので、少し……その…戸惑ってしまいまして……」
な…何…、この羞恥プレイ…。まっすぐな好意を向けられて、しかも名前も呼ばれて、僕は紅くなった顔を見られたくなくて、俯いた。
頭上から優しい声が降ってくる。
「そうでしたか。きっと琳さんの周りの人は見る目が無かったのでしょうね。こんなに可愛らしい人なのに」
「~~~~~」
も、やめ…っ…。恥ずかしいよ……。
「ですが、そのおかげで私に貴方にお会いして想いを告げるチャンスが巡ってきたんですから、結果オーライですね。
琳さん、顔を上げて私を見て」
「……………」
請われて、ゆっくり顔を上げた。
まっすぐに向けられる真剣な眼差しに息を呑む。
「長峰琳さん、私と結婚を前提にお付き合いしていただけませんか?」
「……………」
結婚前提…。分かってはいた。お見合いを申し入れるという事は、お近づきの顔合わせから交際、そして最終目的の結婚へと至るのが一連の流れみたいなものだ。当然、断る権利はある。断るのに一番ベストなタイミングは顔合わせの直後だ。交際してみて「やっぱり無理」という事もあるだろうけれど、流石にそのタイミングでは断りにくい。
一度、持ち帰って家族に相談するべきか…。
でも困った事に、僕自身は彼の交際の申し出にうなずきたいと思ってる。僕の事なんだから、自分で決めても良いんじゃない? 少なくとも見合いを決めた両親は反対はしないはず…。だから僕は…。
「僕、大学生です」
「存じております。経営を学んでいらっしゃるとか」
「はい。僕はΩですが、一人の男です。結婚はまだ先の事と考えていたので、卒業後は父の会社に入り、いずれ会社を継ぐ兄の力になれれば…と。微力ですが」
「素晴らしい考えだと思います」
「本当にそう思われますか?」
「もちろんです。大学は是非、卒業してください。未だ時代錯誤的に『Ωに学は不要』という考えの方もいるようですが、私はそうは思いません。学んだ事は決して無駄にはなりませんから」
「兄と姉もそう言ってくれます」
「良いご
「自慢の兄と姉です」
超の付くほど過保護ですけど…は言わなかった。
「琳さん、まずはお互いを知る事から始めませんか? 私は貴方を知りたい。貴方の好きなもの、嫌いなもの、趣味ややってみたい事…。無理に暴く事はしません。交際している間に自然に少しずつ知っていけたら…と思っています。
もう一度お願いします。付き合って下さい」
今度は手を差し出された。了承なら握手を…という事だろう。まっすぐに伸ばされたその手を見つめる。
今の短い言葉の応酬で、僕の彼への好感度は急上昇した。彼の事をもっと知りたいと思った。
僕はそろりと手を伸ばすと、彰宏さんの、僕より一回りは大きな手を握った。
「よろしく…お願いします」
とー。
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