chapter03
「ここが……ダンジョン……」
近くにあるのは知っていたが、訪れたのは初めてだった。
来ようと思ったことさえない。
ここは、僕には縁のない場所だと思っていたから。
外観は思っていたよりも普通の建物だった。
何も知らずに通っていたら、多分ダンジョンがあるとは思わないだろう。
そのせいか、今は特に緊張もない。
自動で開く扉が、まるで僕を歓迎しているかのように思えた。
「──イラッシャイマセ」
中に入ると、どこからともなく声が響いた。
味気のない、無機質な声だ。
明らかに肉声ではない。
どうやらここは、無人ダンジョンらしい。
無人ダンジョンとは、管理局の職員がいないダンジョンを指す。
低ランクのダンジョンは現れる敵の質も低ければ、お宝の質も低い。
実入りが少ないダンジョンなのだ。
となれば必然的に訪れる探索者も少ない。
実際、今このフロアにいるのは僕だけだった。
管理局にはそんな場所に人員を割いている余裕はないらしく、低ランクのダンジョンにはこうして無人となっている場所がしばしばあるようだ。
しかし、無法地帯というわけではない。
最新の人工知能によって、安心安全な運営がされているらしい。
事実、ダンジョン攻略に必要となる様々なアイテムがコンビニのように陳列されているが、荒らされている様子はない。
もしも万引きなどしようものなら、すぐさま防犯システムが作動し、あっという間にお縄となる。
セキュリティの高さは、僕のボロアパートよりも遥かに上だろう。
別に僕はダンジョンを攻略しに来たわけではない。
ともすればアイテムも必要ないが、折角だから見ておくことにした。
どんなものがあるのか、いくら位するのか興味がある。
「……って、高いな」
ホームセンターでも買えそうなアイテムは大したことないが、武器や防具なんかの値段はえげつない。
ちょっとしたナイフでも軽く十万を超える。
なんでも特殊な加工がされているらしいが、僕では到底買えそうもない商品だ。
だが、それほど驚きはなかった。
探索者の活動には金が掛かるというのは有名な話だ。
なるのは簡単だが、成功できる人間は極僅かだ。
ひと握りの人間のみ。
夢を見るには、あまりに過酷な職業だった。
甘い世界じゃない。
それに比べたら、僕の受けているいじめなんて大したことは無いだろう。
だが、それは比べるものではない。
「さて、冷やかしも済んだことだしそろそろ行くかな……」
意気込んだのはいいものの、正直に言うと怖い。
僕は、生きているのが嫌になっただけで、死にたいわけじゃないのだ。
当然のように死への恐怖がある。
身体が震える。
心臓の鼓動が速まる。
一度でも足を止めてしまえば、きっともう前には進めないだろう。
だから止まらないし、止まれない。
こんな世界はもうたくさんだ。
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