chapter02

 どこで死のうか。

 帰宅途中、そんなことばかりが頭を巡る。


 家でも別にいいんだが、それだと事故物件になってしまう。

 僕が住んでいるのはボロアパートだが、大家さんにはなるべく迷惑をかけたくなかった。


 あの人は良い人だから。


 僕は、そのボロアパートに一人で暮らしている。


 僕を忌み嫌った両親からあてがわれた家だ。


 両親といっても血の繋がりがあるのは母親だけで、今の父親は再婚相手。

 本当の父親はどこにいるのか分からない。

 僕が幼い頃に不倫の末に出ていった。


 母親に言わせれば、僕は本当の父親にそっくりらしい。

 だからこそ嫌われている。


 母親に嫌われているせいか、はたまた別の理由か、当然のように義父にも嫌われている。


 つまり、僕が死んで悲しむ人間はいない。


 しかしやはり、死ぬ場所が問題だ。


 誰にも迷惑をかけず、ひっそりと死ねる場所。

 そんな都合の良い場所がどこかにないのだろうか……。



「──……あるじゃないか」



 一つだけ、ある。

 誰にも迷惑をかけることもなく死ねる場所が。


 それは、五十年前に突如として現れたダンジョンと呼ばれる摩訶不思議な建造物だ。


 未知の危険生物。

 多種多様な環境。


 様々な観点から、中は異次元に繋がっているとも言われているが、実際のところは未だよく分かっていない。


 危険極まりない場所だが、それでもダンジョンを訪れる者は絶えなかった


 何故かと言えば、ダンジョンには数多のお宝が眠っているからだ。

 非科学的な能力を秘めるダンジョン産のアイテムには、リスクを背負ってでも余りある価値がある。


 故に人は、危険であると分かっていながらも、ダンジョンへ潜るのを止められない。

 ダンジョンには夢が詰まっているから。


 そういった夢追い人のことを、人々は"探索者"と呼ぶ。


 昔こそイロモノ扱いされていたらしいが、今や探索者は若者に人気の職業であり、ダンジョン産のアイテムは生活に欠かせない物として社会に浸透している。


 一方で、ダンジョンでは年間百人近い人間が命を落としている。


 それも、死亡が確認されているのが百人というだけで、行方不明者はもっといる。


 慣れていても、気を抜けばあっという間に命を落とす。

 それがダンジョンという場所らしい。


 そんな場所だからこそ、死ぬには向いていると思えた。

 あそこなら死んでも違和感はないし、曰くがついたりもしない。

 誰かに迷惑をかけることもないだろう。



「行ってみるか」



 家に向かっていた足を止め、僕はスマホを取り出した。



「【緑のG4】か……」



 ダンジョンは色によってその性質が区分されている。

 緑は森林系のフィールド。


 アルファベットはランクを指しており、最高難度はS。次点にA。Gとはつまり、僕と同じ最低ランクだ。

 数字は単なる識別番号なので特に意味はない。



「決めた」



 ここにしよう。


 最低ランクでも、僕のような雑魚ならば簡単に死ねるだろう。

 ダンジョンが現れたばかりの頃ならいざ知らず、現代において最低ランクのダンジョンで死ぬというのは笑い草でしかないが、むしろ、僕にはお似合いの死に方かもしれない。


 僕は家に向かっていた身体の向きを変えてダンジョンを目指した。


 ここからだと、歩いて十五分ほどか。



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