第4話 不躾な視線とFランクの証明
ギルドの受付嬢は、差し出された魔晶石――身分証の代わりとなる魔導具を、震える手で受け取った。
レンが深く被っていたフードをわずかに持ち上げただけで、彼女の意識は半分ほど天に昇っている。
「あ、あの、えっと、登録……ですね。
ギルドランクはこれまでの実績により、判定されますが……」
「実績はありません。一番下のランクからでお願いします」
「ええ!? 一番下のランクからでよろしいのですか?
ですが貴方様は」
「一番下のランクからでお願いします。二度も言わせないでください」
レンの何の感情ものっていない冷淡な声に、受付嬢は我に返ったように瞬きを繰り返した。
「えっ……。し、しかし、そちらのフェンリル様は……」
彼女がレンの足元に控えるブランを見れば、退屈そうに『ふん』と鼻を鳴らした。
この伝説の魔獣フェンリルを連れていながらを連れて《初心者》はあまりに無理がある。
周囲の冒険者たちからも、ヒソヒソと野次馬根性丸出しの声が漏れ始めていた。
「おいおい、あんなお姫様みたいなツラで冒険者なんて出来んのかよ」
「貴族様が家出してきたのか、それとも王族の落とし胤か、珍しいペットを連れてお遊びに来たのか?」
「実力もねえのに格好だけつけやがって」
嫉妬と羨望が混じった、粘着質な空気。
レンは眉間に微かな皺を寄せた。
やっぱりこうなるのか。どこへ行ってもこれだ。
レンがその“欲”を根こそぎ叩き潰してやろうと、瞳に黄金の魔力を宿した――その時。
レンの隣に、ひらりと影が差した。
「……おい。そこの《お姫様》をからかうのは、
その辺にしとけ。酒が不味くなるだろ」
近くで見れば、男はまるで街の風景に溶け込むような、無駄のない洗練された佇まいをしていた。
整った顔立ちには一切の気負いがなく、投げやりなほどに力が抜けている。
だが、その琥珀色の瞳の奥には、油断ならない“凄腕”の光が潜んでいた。
「……お姫様?」
レンの瞳が、急速に冷徹な温度を帯びた。
自分を女扱い、あるいは“守られる側”と断じる言葉は、最大の地雷だ。
ああ、この男も同じなのか。
落胆した思いを抱いた時、僕は無意識にこの男に“期待”していたのだと気づいた。
ギルドに入ってすぐ、隅にいた男と視線あった。
今までとは違い、不愉快じゃない視線。
むずかゆくなるような、なにか。
人に期待しないと心に決めていたのに。
「あなた……死にたいんですか。
その口、二度と動かないように縫い付けて差し上げましょうか?」
瞬間、レンはアクティブスキル【絶対拒絶】を、男に向けてピンポイントで放った。
周囲の冒険者ならそれだけで呼吸を忘れ、恐怖に膝を突くほどのプレッシャーだろう。
だが、男は眉一つ動かさず、むしろ愉快そうに片方の口角を上げた。
「ははっ、いい目だ。……ツラが良いだけじゃねえんだな。
おい、嬢ちゃん。このガキの登録、俺が保証してやるよ。
ちょうど“荷物持ち”を探してたんだ」
「はぁ!? ガイさん、正気ですか!?」
「あんたソロ専だろ!?」
受付嬢だけでなく、ギルド中が騒然とする。
レンは呆気にとられた。
拒絶の波動を、まるで春風でも受けたかのように平然と受け流したうえに、あろうことか“荷物持ち”呼ばわり。
こんな経験は、人生で初めてだった。
『……主よ。この男、面白いぞ。
美に当てられず、主自身を見ておる』
ブランの面白がるような念話が響く。
レンはふい、と男ーーガイから視線を外した。
不躾で、傲慢で、デリカシーの欠片もない。
だが――これほどまでに自分を“
「……“荷物持ち”?
冗談はやめてください。僕の荷物は、ブランが――」
「はっ、魔獣に荷物を持たせるのか? 贅沢な奴だな」
「それに、僕に何のメリットがあるというんですか?」
「メリット……。そうだな。俺がいればお前はスムーズに冒険者登録ができる。
それに、俺は冒険者の中でも顔が知れてる。
そうすりゃ、変な輩に絡まれずに済むだろ?」
「…………」
レンは黙り込んだ。
確かに、この容姿で一人で歩けば、その瞬間に面倒なことに巻き込まれるのは目に見えている。
この男を“防波堤”として利用するのは、悪くない提案だった。
「……安っぽい依頼とやらに付き合うのは、今回だけですからね。
感謝してください」
「ああ、期待してるぜ。よろしくな、お姫様」
「……次にその呼び方をしたら、喉を潰します」
こうして、世界で最も不機嫌な《美貌の荷物持ち》と、世界で最も無愛想な《最強の隠居剣士》による、奇妙なパーティが結成された。
絶世の美貌(呪い)を盾に、僕はダンジョンでピクニックがしたい ~異世界で二度目のハーレムはお断りなので、魔物と相棒を甘やかして生きていく~ 尚秀 @nana029
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