第3話祝宴の火柱
幸せな音のはずだった。パチパチとはねる油の音が、惨劇の幕開けを告げるブザーに変わるまでは。
今日は長男、陽太の五歳の誕生日。不慣れな手つきで台所に立つパパの正志(まさし)は、陽太のリクエストである「山盛りの唐揚げ」を作るべく奮闘していた。
「よし、いい色になってきたぞ……」
その時、リビングから「パパ、見て見て!」と陽太の大きな声がした。
ほんの数秒、自慢の工作を見に行くために目を離した。そのわずかな隙が、運命を分けた。
台所に戻った正志の目に飛び込んできたのは、鍋からゆらりと立ち上る、不気味に黒い煙だった。
「……火がついてる!?」
焦熱が顔を打つ。鍋の中の油が、その発火点を超えたのだ。
パニックに陥った正志の脳裏に、一つの「常識」がよぎる。
――火を消すには、水だ。
正志はシンクに置かれたコップを掴み、蛇口から勢いよく水を溜めた。そして、燃え盛る鍋めがけて、その水を力任せにぶちまけた。
――その瞬間、世界が爆発した。
ドォォォォォンッ!
という轟音とともに、巨大な火柱が天井まで突き抜けた。油に触れた水が一瞬で気化し、体積が爆発的に膨張。燃える油の粒子を、散弾銃のように周囲へと撒き散らしたのだ。
水蒸気爆発。
一瞬でキッチンの壁紙は焼け焦げ、カーテンに火が燃え移る。正志の腕には、飛び散った熱油が容赦なく襲いかかった。
「あ……熱い……ッ!」
良かれと思ってした行動が、ボヤを「大火災」へと進化させてしまった。
もし、あのまま水ではなく、コンロのスイッチを切って濡れたバスタオルを被せていたら。あるいは、消火器を使っていたら。
バースデーソングが流れるはずだったリビングには、火災報知機の無機質な警告音だけが鳴り響いていた。
【第3話:防ぎ方と対策】
1. 油火災に「水」は絶対に厳禁
高温の油に水を入れると、水が急激に蒸発して油を周囲に吹き飛ばし、火を巨大化させます。絶対に水をかけないでください。
2. 窒息消火を試みる
コンロのスイッチを切り、鍋より大きなサイズの蓋を被せるか、十分に濡らして絞った厚手のタオルやシーツで鍋全体を完全に覆い、空気を遮断してください。
3. 専用消火器の使用
揚げ物火災に対応した住宅用消火器(強化液タイプなど)を備えておきましょう。火の勢いが強く、少しでも危険を感じたら無理をせず、即座に避難して119番通報してください。
⚠このお話はフィクションですが、紹介した現象は現実のものです。調理中の火災には正しい知識で対応してください。
次の更新予定
生活のハザード百科 アーレ @Aren252518
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