第2話静かなる訪問者
その眠気は、抗いがたいほどに心地よいものだった。
深夜、猛吹雪の中。会社員の健吾(けんご)は、ホワイトアウト寸前の視界に運転を断念し、郊外の路肩に車を止めていた。
「……少し、目を閉じるだけだ。除雪車が来るまで……」
凍えるような寒さを凌ぐため、エンジンはかけたまま。ヒーターの温風が、疲れ切った体に染み渡る。
外では激しい雪が、音もなく車体を包み込んでいく。排気管(マフラー)の出口が、積もった雪に塞がれ始めていることに、健吾は気づくはずもなかった。
車内に、「それ」が忍び寄る。
一酸化炭素。無色、無臭、無刺激。五感のすべてをすり抜ける、透明な暗殺者だ。
最初は、軽い頭痛だった。
健吾は「疲れのせいだ」と思い、シートをさらに深く倒した。だが、体の中では異変が起きていた。一酸化炭素が血液中のヘモグロビンと結びつき、全身への酸素供給を冷酷に断ち切っていく。
「……あ……れ……?」
数分後、異常な息苦しさに健吾は目を開けた。だが、すでに手足は自分の意志では動かない。脳が激しい酸欠に悲鳴を上げているのに、指先ひとつ動かす力すら湧いてこないのだ。
窓を開けなければ。外に出なければ。
視界が急速に狭まり、意識の端が暗闇に溶けていく。目の前の窓ガラスの向こうには、ただ冷たい白銀の世界が広がっているだけだ。
叫ぼうとしても、喉からは掠れた吐息しか漏れない。
幸せな夢を見ているような錯覚と、体が泥に沈んでいくような絶望。
もし、このまま深い眠りに落ちてしまったら。明日、除雪車が見つけるのは、雪に埋もれた鉄の棺桶と、眠るように息絶えた男の姿だけだろう。
健吾は最後、残された全神経を右足に集中させた。
【第2話:防ぎ方と対策】
1. 雪の中でのエンジン停止
積雪時に車を止める際は、原則としてエンジンを切りましょう。排気口が雪で塞がると、排気ガスが車内に逆流し、短時間で致死量の一酸化炭素が充満します。
2. こまめな除雪
どうしてもエンジンをかける必要がある場合は、定期的に車の周囲、特にマフラー付近の雪を取り除き、排気の通り道を確保してください。
3. 換気と警戒
車内でも窓を数センチ開けて換気を行うことが有効です。「頭痛」「めまい」「強い眠気」を感じたら、すぐにドアを開けて外の空気を吸ってください。
⚠このお話はフィクションですが、紹介した現象は現実のものです。積雪時の車内待機には十分注意してください。
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