好きな相手を射止めるにはまず胃袋から③
「お湯、ありがとうございました……え!?」
風呂から上がった私は、驚愕した。
焼き鮭、揚げ出し豆腐、卵焼き、味噌汁、ほうれん草の胡麻和え、白米のご飯……。
一瞬旅館の朝食かと思うほどの腕前だ。
「あ、カオルさん」
「あの、これ……全部作ったの?」
「そうだよー。ほら、座って」
すでに食卓テーブルの前に座っている青年に促されて、私も座る。
「す、すごいね……。料理得意なの? えーっと……」
「名前教えたはずだけどなー」
青年は頬杖をついて、不満そうな視線で見てくる。
私ってば、一夜限りの関係で家にお邪魔した上に風呂を借りて更に朝食までいただくことになってしまったのに、名前すら覚えていない……。駄目人間すぎるな……。
「ご、ごめん……」
「面白いね、カオルさん。からかってごめんね。オレの名前はケイ。今度こそ覚えてね」
「ケイ……さん?」
「オレ、二十四歳。カオルさんは二十七歳って言ってたから、タメ口でいいよ」
「はあ……」
「まあ、とにかく作った料理食べてみてよ。腕には自信あるから」
「う、うん……。ケイ……くん」
二人でいただきます、と手を合わせて朝食を食べる。
まず食べるのは……揚げ出し豆腐。小ネギが散らされた、みぞれの揚げ出し豆腐。ひと口、運ぶ。
「……っ!」
めんつゆを使用した揚げ出し豆腐は、大根おろしのおかげで醤油の味が強すぎることなく、さっぱりとした風味になっていた。ふわふわの片栗粉の表面の下にある、木綿豆腐の触感。無骨だけどしっかりとした大豆の味わいが広がる。
「お、美味しい!」
「ほんと?」
「うんっ! ほんとに!」
「よかった」
嬉しそうにはにかむケイくんに、思わずこっちまで照れてしまう。
思わず私は、「何見てるの……」なんて言ってしまった。
「……オレのこと、意識した?」
「何が……」
「だって、好きな人に料理褒められたの、嬉しいんだもん」
「す、好きな人って……1回だけしか会ったことない間柄でしょ」
「うん。でも、オレはカオルさんのこと好きだよ」
「……ほんと、何言ってんの。馬鹿じゃないの……」
……きっと、からかってるだけだ。
バーで知り合ったばかりの女に対してこんなことを言うのは、相当遊び慣れているのだろう。ケイくんはどう見たってイケメンだし……。
ただ、なんでこんな平凡な女を引っかけようとしたのかが分からない。
味変か……?
私もラーメンは醤油が一番好きだけど、たまに味噌ラーメンが食べたくなる時だってある。
……そっか。多分、ケイくんにとって私と一夜限りの関係を持ったのは味変なんだ。
ケイくんが普段遊んでる女性たちは醤油ラーメンで、いかにも彼よりは恋愛経験が少なそうな私は味噌ラーメン。
同じようなタイプの女性と遊びすぎて、飽きたのかも。だから私に手を出したんだ。きっとそうに違いない。
そうやって結論づけて、私は大根とお揚げの入った味噌汁を啜った。
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