好きな相手を射止めるにはまず胃袋から②

 昨日の服を身に着けた私は、相手に謝罪するために寝室を出た。そして、リビングに向かってドアを開ける。

 リビングには食卓テーブル。その先にはキッチンがある。

 そこにはこちらに背を向けながら、鼻歌交じりに作業をしている青年がいた。炊飯器の音だろうか。ピーッという機械音が鳴る。


「あ、あのう……!」

 勇気を出して私はキッチンのほうへ声をかけた。なるべく大きな声で。

 相手が振り向いた。

 遠くからでもわかるほどの明るい茶髪。背もかなり高い。


「昨日は……ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした……!」


 私は変わらず大きな声で謝罪した。

 すると、早足で私に近づく。


「おはようっ! カオルさん!」


 私の手を取る。

 薄茶色の綺麗に散髪された髪。私よりも遥かに大きい……一八〇センチは確実に超えている身長。陽に透けるような色白の肌。高く整った鼻。髪の毛と同じ色の眉は太めだが形がいい。くっきりとした二重の瞳は冬の湖の底のようなアイスブルーで、見つめていると吸い込まれそうだ。ぽってりとした唇を大きく開けて、満面の笑みを浮かべている。

 ……要するに、スタイルがすこぶる良い美男子。絵本の中の王子様みたいなイケメンだ。しかも顔立ちから推測するに、外国人のハーフかクォーターのイケメンだ。

 

「あ、お、おはようございます……」

「身体大丈夫? どっか痛いところない? あ、まだ朝ご飯できなくてごめんね! ご飯炊けたらすぐ出せるからっ」

「え……? 朝ご飯……? いや、申し訳ないんですけど……」

「ん? なになに?」

「わ、私帰ります……。本当にすみませんでした。こういうのはアレなんですけど……お互い、昨日のことはなかったこととして……」

「ええ!?」


 あまりにも青年の人懐こい笑顔に押されたため、切り出すのには躊躇したが……。迷惑をかけた上に朝食まで厄介になるわけにはいかない。


「そりゃないよー、カオルさん! 朝ご飯だけでいいから、食べて行って! ねっ? あ、ちょっと待っててー」

「い、いや……でも、ってどこ行くんですか」


 私の制止も聞かずに、青年は奥の部屋に行ってしまった。

 だが、すぐに戻ってきた。何かを持って私に渡す。


「これ、カオルさんが寝てるときにすぐ下のコンビニで買ってきた下着とオレの部屋着、タオルと……あとこれはドライヤーね。部屋着は大きかったら捲ってね。あと、お湯沸いてるから。ご飯が炊けるまでの間に風呂入りなよ」

「え……!? いやいや、そこまでお世話になるわけには……」

「いいっていいって。こういう時は素直に受け止めるべきだよー」


 青年はそう言うと、つないだ手をそのままに風呂場の脱衣所に私を押し込んだ。

 パタン、と閉まる。鼻歌が再開された。


「え、ええ……?」


 私の困惑の声は、風呂場のドアに遮断されたようだ。

 

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