第3話 仲直りとモンブラン
昨日はあれからメンタルがしんどい、天気も雨模様だしダブルできつい。
未来とか現在とかよくわからんが、どうやら東雲薫さんには特殊な事情があるようだ。
オトナ薫さん曰くあれは大丈夫、とのことだったが本当だろうか。
そんなふうに昨日の夜は悶々としていた。
パン屋の前を横切る際、チラっと店内の様子を見てから横切る。
東雲さんはいないみたいだ。
「ごきげんよう」
「か、薫さん」
「どうして今日はパン屋さんに行かなかったの?」
「今日はお弁当があるので」
「じゃあさこれを見てよ」
薫さんにスマホを見せられる。
パン屋の店内で制服姿の東雲さんとそのパン屋をスルーする俺の写真が写っていた。
俺から見えない位置に現代の東雲さんがいたらしい。
「もしかして東雲さんって、パン屋で俺のことを待っていたんですか?」
「そうよ。あの子は伊吹さんと話がしたかった、昨日からずっと後悔していたからね」
「なんか悪いことをしちゃったかな」
「あの子にも反省をする時間は必要なの。でももしあの子が伊吹さんに勇気を出したら、真正面から向き合ってあげてね」
「そんなに期待はしないでくださいね、なんだか気まずい感じですし」
「そういうのを含めて甘酸っぱい青春っていうのよ。今のうちしか味わえない格別な青春だからね、頼んだわよ」
「へ?」
薫さんは言い逃げして消えた、言っている意味がわからない。
気づけば傘の持ち手にビニール袋がかけられている。あそこのパン屋のやつだろう。中にはメロンパンが入っている。
ますますその意図がわからないよ薫さん。
◇
「木場。マジで一日中そんな死んだ目をしてどうしたんだ? ぶっちゃけ怖いぞ」
自席で外をぼーっと眺めていると、友人の冬木壮介は俺に話しかけてくる。
「甘酸っぱい青春についてちょっと悩んでいてな」
「意味わかんねー。つか木場は失恋でもした?」
「全然違うけど。でも話すのが少し気まずくなったといいますか、向こうから嫌われてしまったというか」
「なにやったの?」
「ナンパから助けたら自分一人で対処できるからもう干渉するな。みたいな感じ」
「あー、なんかお察し。めんどくさそうな案件だな、つかもう関わらないだろうし気にしなくていいんじゃね」
「実はご近所さんだった」
「お前引っ越し早々やらかしすぎでしょ」
冬木は苦笑いする。
「本当にそうなんだよなぁ」
気が進まないのはそういう理由なのだ。
できればこんなに揉めたくなかったんだ。
「頼む。今日は俺と一緒に帰ってくれ」
「悪いな木場。今日は生徒会なんで」
冬木は生徒会役員。
それをすっかり忘れていた。
「ふ、冬木。俺の傷心を癒やしてもらうのと、新居を紹介しようと思っていたのに」
「埋め合わせは今度する。だから今日のところは、一人でおとなしく帰るんだな」
冬木は爽やかな顔をしてそう言い放つ。
◇
川沿いの桜並木は薄暗くいつもとは違った様相を見せる。花びらが雨によって落ちてしまい、地面でぐちゃぐちゃになってしまって儚く思う。
俺の横に並んでくる人がいる。
おそらくオトナの薫さんだろう。
「……ごきげんよう」
「あー、またなんの用ですか?」
「そ、その。ゆっくりお話がしたくて」
「えっ、あ、東雲さん」
制服姿の東雲さんが横にいる。
しまったオトナ薫さんの方だと思っていて、すっかり油断していた。
「あそこに、雨でも濡れずに座って話せる場所があるので。もしよかったら行きませんか?」
指さす方を見るとカフェだった。
「ええ、構いませんけれど。でも俺と一緒だと迷惑じゃないですかね」
「そんなわけないです。だからきてください」
東雲さんは語気を強める。
俺は彼女の意思を汲み取りカフェに行くことに。
◇
クリーム色の光を放つ店内。
コーヒーの香ばしい匂いと、時折マダムたちの談笑が聞こえる。
俺と東雲さんはカフェラテとこの店ご自慢のモンブランを頼む。
「それで話ってなんですか?」
「……昨日のことで」
「はい」
「失礼な態度を取ってしまったことを謝りたくて、本当にすみませんでした」
「……気にしてません。というのは嘘です」
「えっ」
「だからホッとしました」
「あれでは私も当然嫌われてしまっただろうと思っていたので、正直ホッとしました」
お互い微笑みを交わす。
嫌われていなくて心底安心したし、今日一日のモヤが晴れた気がした。
「私誰かに助けられたことってないんです。だからあのときは動揺して、それであなたのことを拒絶してしまって」
その話はオトナ薫さんも言っていたな。
「別に一人でもなんとかできたのは本当なんですけどね」
東雲さんはジト目で俺を見る。
「でもありがとうございます」
東雲さんはにっこり笑い俺に感謝を伝えた。
「えっ?」
「隙ありです。これ貰いますよ」
モンブランの一番美味しい栗を奪われてしまう。
「あっ、ちょっ」
「んー、うまぁ。油断した木場さんが悪いんです」
美味しそうに俺の栗を食べる。
オトナ薫さんに比べたら、こども薫さんは本当に精神年齢が違うのだな。
どう成長したらああいうふうに変わるのだろうか、ぶっちゃけ俺の好みは大人の薫さんなんだよな。
「私の顔をじっとみてどうしました?」
口元にクリームをつけた東雲さんが、デジャブ感のある質問をする。
「えっ、いや」
「……また老けたとかいうんですか?」
「いや、違う。そういう意味じゃなくて」
「じゃあなんですか?」
「将来はめちゃくちゃ美人なお姉さんになるんだろうなって思っただけ」
「本当に気持ち悪い。また私のことを年上認定してくるんですか、そうですか」
侮蔑したような目を俺に向ける。
女子からのその言葉は心にくるものがあるし、つかそんなこと言わなきゃよかった。
「おバカでノンデリな伊吹さん」
テーブルの下から蹴ってくる。
彼女の履いている靴がローファーなので地味に攻撃力が高くて痛いな。
「悪かったよ、言葉が悪かった」
「……女性には無難にかわいいとか綺麗だよがいいんです。年上認定だけは本当に許してませんからね」
「失言でした、以後気をつけます。そんで薫さん。どうしたら許してくれますか?」
「ここのお支払いはマストです」
「えっ、でも今日って薫さんが俺に謝りに来たんだよね?」
「お支払いお願いします」
にこりと微笑む。
しかし目が笑っていなかった。
「……はい。俺が払います」
俺はここの支払いをすることになったし、都心のカフェは高すぎることを初めて知った。
◇
外に出ると雨が上がっていて、雲の隙間から晴れ間が見える。
「東雲さん、雨がやんだみたいだ。これなら傘をささずに帰れる」
「そうみたいですね」
「どうしました? 俺の顔をじっと見つめて」
ぼーっとして頬を紅く染めながら俺を見る。
「私よりもずーっと年上に見えますね」
「へ?」
「なんかおじいちゃんみたいですね」
「俺への仕返し?」
「どうでしょうか?」
東雲さんはイタズラっぽく笑う。
「私は結構しつこいんですよ。たとえ十年、いえそれ以上の年月が経ったとしても。絶対にやめてあげないんですから」
イタズラっぽい笑顔を見せると、俺の頬をギュッとつねる。
「痛っ」
あっ、オトナの薫さんのアレだ。
つねる力の強さも全く一緒。
「つねられて笑うだなんて、木場さんってドMなんですね」
少し呆れた様子の東雲さん。
「確かに否定はできないかも」
俺はおどけて答えてみせる。
今まで半信半疑だったけれど、現代の『東雲薫』を見てようやくそう確信できた。
あんなに綺麗になるんだなこの人は。
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