第4話 薫様と有明飛鳥
あー、マジかよ。
右手にはトング、左手にはゴミ袋。
休日の朝っぱらから、生徒会主催の公園清掃ボランティアを手伝うハメになってしまった。
「木場ー、騙すような真似をして悪かったって。だから機嫌を直してくれよ」
「俺はお前が困っているからって聞いていたのに、朝からゴミ拾いをするなんて聞いてない」
「だってゴミ拾いって言ったらお前、絶対に来ないだろ」
「俺は善人キャラじゃないし、朝は人並みに弱いの」
「ぶつぶつ言いながら手は動いているんだな」
「当たり前だ。乗りかかった船だし」
俺は目の前の空き缶を拾う。
「でも女子高の生徒と一緒にゴミ拾いなんだから、少しは喜んでもいいだろ」
「女子高?」
「そう、凪端女子さんと合同なんだよ」
「ふーん」
一瞬、東雲薫さんの顔が浮かぶ。
しかしここには参加していないだろうな。
こういうイベントに参加する、あのお嬢様が想像できないし。
「おっ、食いついた?」
「それはない。あっちの方は誰も行っていないみたいだし、俺が行ってくるわ」
「了解。頼んだぞ木場」
◇
俺は一心不乱に辺りのゴミを拾う。
案外やってみたら楽しいかも。
ま、地域の環境を綺麗にして、しかも内申まで上がると考えればやって損はないし。
「ごきげんよう」
「あっ東雲さん。おはようございます」
なにか聞き覚えのある声だと思ったら、東雲薫さんであった。
じっと顔を見つめて、今回は現代の方だと認識した。
それに未来の麗しい薫さんが、わざわざポニテのジャージみたいな格好で参加はしないだろうし。
「なにか?」
「いえ綺麗ですね」
「まーた失礼なことを考えていましたね?」
じっと見ないと未来か現在なのかわからないんだよなぁ。
とにかくオトナ薫さんの顔面つよつよである。
「まぁいいです。さっさとやりましょう」
「ええ、そうですね」
俺たちは無言でゴミを拾う。
つかゴミ拾いなんて喋ることないしな。
チラっと東雲さんの様子を伺うと、偶然にも目が合う。
「木場さん。今日このあとの予定は?」
「特にないかな。冬木も生徒会の仕事で忙しいでしょうしすぐに帰る予定だし」
「私は友だちとご飯を食べに行きます」
「……ならどうして俺の予定を聞いたの?」
「ふふ、からかってみました」
オトナ薫さんのイタズラっぽい性格って高校生の頃からなんだな。
「先約がいるのでご飯を一緒に食べるのはまた今度にしましょうか、と言いたかっただけですよ」
「そうだな。次は俺の食べものを勝手に食べないでくれよ?」
「ふふ、それはどうでしょう」
今日の東雲さんは機嫌がよさそうだ。
「おっ、やってんじゃん」
「あっ冬木」
冬木が俺のところに見回りに来た。
「えっと二人は知り合いだったのか?」
冬木がそう尋ねると東雲さんは上品に会釈をする。
「俺のマンションの隣人なんだ」
「もしかしてこの人がお前が悩んでいた相手?」
あ、冬木にその話するの忘れていた。
「いや、違う。それ別の人だから」
「ふーん。そんじゃ、俺他のところも回らなきゃだから」
そう言って去ろうとする。
「仲直りできたみたいでなによりだ」
そう言って俺の肩をぽんと叩く。
「いいんだよ、別に」
また余計なことを。
東雲さんはぼーっとして俺を見ていた。
「二人ともお互いのことで悩んで、なんか馬鹿みたいですね」
東雲さんは苦笑いする。
「えっ、ああ」
「こうやって自然にあなたと話せるようになってよかった」
東雲さんは穏やかな口調で呟く。
確かにこんなに彼女と関わるようになるとは、あまり想像できなかったしな。
「でもこれは嘘をついた罰」
「痛っ」
また俺の頬をつねる。
「次は堂々と私を紹介してくださいね」
「わかった約束する。誤魔化して悪かったな」
俺たちは微笑みを交わす。
「ん?」
「どうかしましたか?」
「なんか視線を感じた気がしてな」
誰かに見られていただろうか、そんな気配を感じたんだが。
「私たちの近くには誰もいませんし、おそらく気のせいでしょう」
「ああ、そうかもな」
◇
「ゴミをまとめたので持っていっちゃいます」
東雲さんはゴミが入った袋を収集場所へと持っていこうとする。
「いや重いし俺が持っていくよ」
「いいえ、木場さんはここで続きをよろしくお願いします」
東雲さんの手には新しいビニール袋。
これは逃げられないな。
「絶対にここから逃げちゃダメですよ。また私が来ますからここで待っていてください」
「……はーい」
はぐれないようにと注意を受ける子どもの気分だ。
◇
「やぁ、こんにちは」
「こんにちは」
不意に背後から誰かに話しかけられる。
ゴミを拾う手を止め、声の方に振り返る。
「しっかしー、きばっちも本当に若いわね」
そこにいたのは茶髪でロングボブのお姉さん。
なぜか俺のことを見知った様子で、あだ名のような呼び方をする。
「どこかで俺と話をしたことがありましたっけ?」
「えっ。……かおるんからなにも聞いてない感じ?」
「かおるん?」
かおるん、かおる、東雲薫か。
……もしかしてそういうことか?
「あちゃ~。それじゃあ私不審者じゃん」
「その自覚があるんですか」
俺はこのポンコツお姉さんに向けて苦笑いする。
容姿は整っているのに中身は親しみやすいこの感じ、特に嫌悪感は湧かないな。
「えへへ。これからきばっちに変な絡みしてくるヤツは過去の私だから、よく覚えておいてね。あと本当にごめんなさい、どうか嫌いにはならないで」
そう言って俺の手をギュッと握る。
「以上、未来の有明飛鳥、もとい最高にイカしたお姉さんでした!」
彼女は敬礼をすると突然消える。
やはり俺の推測通り、この人も未来からきた人間だったようだ。
「少しよろしいですか?」
「あっ、有明飛鳥。……さん」
現代の『有明飛鳥』が登場した。
髪型は茶髪でセミロング。
こっちの有明さんは顔つきが幼いし、心なしか華奢で背が低く感じる。
「なぜ私の名前を?」
有明さんは驚いた顔をする。
「えっと、その」
そう聞かれて答えに困る。
今さっきあなたの未来の姿に会いましたなんて、言えないからな。
「私の名前がわかっているのは当然ですね。お家が隣同士ですし」
「ん?」
「あなたから見て左隣は私の家なので」
「……あー」
全く知らなかった。左隣の表札をいちいち確認しなかったしなぁ。
なんなら東雲さんちにしか興味がなかったし、眼中にも入っていなかった。
……と言ったら怒るだろうな。
「木場伊吹さん。今後薫様と関わるのをやめてもらえませんか?」
「薫様?」
「ええ、薫様にあなたはふさわしくありません」
「別に普通に近所付き合いしているだけだし」
「二人でパン屋、共に登校、二人っきりでカフェ、挙句ベランダで談笑」
人差し指を口元に当てながら事実を羅列する。
「お、おい、全部見ていたのか」
「少なくともあの人の隣にあなたはふさわしくない、そう伝えておきます」
有明飛鳥。
厄介なやつである。
どうりで大人の有明さんが、事前に謝罪してきたわけだ。
「あら有明さんね」
渦中の人物が帰ってきたようだ。
東雲さんは有明さんと顔見知りらしい。
「か、東雲さん」
「どうかしたのかしら?」
「いえ彼と楽しく談話していました」
有明は俺の肩をバンバンと強く叩いて、友好アピールをしだす。
なんて白々しいことをするものだ。
「そうだったのですね。木場さんもこんなに可愛いご友人ができて幸せですね」
「はは、どうも」
少し違和感。
東雲さんの話し方がえらく他人行儀に感じる。
これが彼女が学校で出している方の仮面なのだろう。
「わ、私はあちらに行こうと思っているのですが、もしよければ東雲さんもどうですか?」
有明さんは憧れの人とゴミ拾いがしたいらしい。
彼女をそういうていで誘う。
「いえもう少しここにいます。彼の見張りもかねているので」
「そ、それでは東雲さん。ごきげんよう」
「ごきげんよう」
「俺はサボりキャラじゃないんだけど」
「それは本当にごめんなさい。多分ああしないと彼女ずっとここに留まると思ったから」
「ま、気にしてないし大丈夫」
「本当に申し訳ないと思っているの。私の周囲の人間は私をこうして特別視して、人間関係にまで口出ししてくるから」
「そういうの本当めんどくさそうだな」
「仕方ないわよ、もう諦めているわ」
「さっきまでのお嬢様バージョンの東雲さんが、学校のみんなから見た理想の東雲薫ってやつなんだな?」
「そうよ。そういう涙ぐましい演技をしながら、自分の居場所を守っているのよ」
「ギスギスなの?」
「いいえ、そんなことはないわ。ただあの学校やその生徒は私に優等生であることを望んでいるみたい」
「優等生ねぇ」
「なにかしら?」
「あんなに食い意地が張ってるのに?」
「うるさい。あなたと出会うまでは完全無欠の美人でクールキャラだったのに」
「痛っ」
今度は肘で脇腹にぐりぐりとダイレクトアタックしてくる。
よく自分でそんなことを言い出すよな。
東雲薫の自己肯定感は高すぎる。
「木場くん。今度またケーキ奢りだからね」
ジト目で俺を見てくる。
「……はい」
なにはともあれ完全無欠の美人でクールキャラな東雲薫の苦労がよく伝わってきた。
時折みせる東雲薫の幼い感じ、普段の生活の反動なのかもしれないな。
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