【第十九章:第二分隊】
光学迷彩が解除された瞬間、浮遊輸送車は目覚めた野獣のようにガードレールを吹き飛ばし、俺たちの前でドリフト停車した。
ドアがスライドする。俺はあの不気味な機械の頭部を後部座席に放り込み、自分も転がり込むように乗り込んだ。
「掴まって!」
蜂鳥が運転席に飛び乗り、制御盤の上で両手をピアニストのように走らせる。
エンジンが断末魔のような唸りを上げ、車体が沈み込んだかと思うと、矢のように弾き出された。
「蚊! 助手席でタレット操作! 蜻蛉、後ろで制圧射撃!」
「了解」
蜻蛉は無駄口を叩かず、自身の身長よりも長い電磁狙撃銃(レールガン)を掴むと、後部ハッチのルーフを蹴り開け、半身を車外へ乗り出した。
「隊長、街の外へ出ないんですか!?」蚊が機銃の照準を合わせながら叫ぶ。
「無理だ! ジャミングが強すぎてナビが死んだ!」
蜂鳥はハンドルを急激に切り、倒れてきて俺たちを押しつぶそうとした「街灯」を回避した。
「まずは『
なるほど。
最初に出会った時、彼女たちはただうろついていたわけじゃなく、挟撃作戦の途中だったのか。俺たちを拾ったせいで予定が狂ったわけだが。
「だが……この街は俺たちを合流させる気はないみたいだぞ」
俺は窓の外を見て、総毛立った。
通り全体が「生きて」いる。
信号機は三つ目の砲台に変形し、狂ったように俺たちを狙い撃ってくる。
道端の郵便ポストは大口を開け、俺たちの車種をスキャンし続けている。
アスファルトの上の減速帯でさえ、トゲだらけの金属の背骨となってタイヤをパンクさせようと隆起してくる。
ズドンッ!
屋根の上で轟音が響く。
蜻蛉が発砲したのだ。
バックミラー越しに見える彼女は、氷の彫像のように微動だにせず銃を構えていた。
放たれた蒼い電磁弾は、最も接近してきた擬人機のコアを正確無比に貫いていた。
無駄がない。
一撃必殺(ワンショット・ワンキル)。
デリバリー配達員に偽装してバイクで追ってきたロボットたちが、バイクごと火だるまになって吹き飛ぶ。
「強ぇ……」俺は思わず呟いた。
「気を抜くな!」蜂鳥が歯を食いしばる。冷や汗が顎を伝う。「レーダーにデカいのが映った!」
その警告は遅すぎた。
あるいは、そいつが速すぎたのだ。
交差点を突破しようとした瞬間、右側のデパートのガラス壁が粉々に砕け散った。
巨大な質量が壁を突き破り、道路の中央に立ちはだかり、俺たちの進路を塞いだ。
それは普通の擬人機じゃない。
三階建てのビルほどもある、重装甲攻城機兵だ。
ゴリラのような太い腕、背中には巨大なミサイルポッド。分厚い装甲には、絶望的な軍用グリーンの識別番号がペイントされている。
――Type-09『
「嘘でしょ! なんでこんな所にアイツがいるの!?」
蚊の声が裏返った。
「マニュアルじゃ、フル装備の二個分隊が重火器で集中砲火してやっと抜ける相手だよ!」
「衝撃に備えろ!!」
蜂鳥の瞳孔が収縮する。
距離が近すぎる。ブレーキは間に合わない。
彼女はドリフトレバーを引き、濡れた路面で車体を横滑りさせ、怪物の股下を潜り抜けようと試みた。
だが、Type-09はそんな甘いチャンスをくれなかった。
奴は車体よりも巨大な金属の拳を振り上げ、単純かつ暴力的に――叩きつけてきた。
ドォォォォン!!!!
世界が回転した。
俺たちの車は蹴飛ばされた空き缶のように宙を舞い、数回転して路肩のカフェに突っ込んだ。
ガラスが散乱し、車内の警報音がけたたましく鳴り響く。
蜂鳥は変形した運転席から這い出した。手には通信機が握りしめられている。
「……みんな、生きてるか……座標は送った……増援まであと五分……」
……五分?
俺は窓の外を見た。
あのType-09がゆっくりと振り返り、赤い電子眼でこの鉄屑の山をロックオンしている。背中のミサイルポッドが開き、中にぎっしりと詰まった弾頭が顔を覗かせた。
五分どころじゃない。
あと五秒で俺たちは灰になる。
「……終わったぁぁ!!」
蚊が絶望して座り込む。
俺は隣でまだ昏睡しているネフヤを見て、無力感に打ちひしがれた。
あの怪物がミサイルを発射しようとした、その一秒前だった。
ズズズズズ……ッ。
それはミサイルの発射音ではなかった。
何か巨大な構造体が、物理法則に逆らって無理やり圧縮されるような、極めて不快な金属の悲鳴だった。
俺たちの目の前で。
俺たちを灰にしようとしていたType-09の動きが、唐突に凍りついた。
直後。
ポンッ。
まるで見えない巨人が、空っぽの紙パックを気まぐれに踏み潰したかのような音がした。
爆発の炎も、轟音もない。
複合装甲を持ち、重火器部隊が二つ必要なはずの戦争兵器が、一瞬にして――内側に向かって「
背中のミサイルも、分厚い装甲も、内部の核電池も、すべてがコンマ一秒の間に、何らかの理不尽な黒い重力によって一塊に丸められたのだ。
三階建ての巨体は、瞬きする間に、一辺五十センチにも満たない、黒煙を上げる高密度の金属ブロックへと変貌した。
金属塊は重苦しい音を立てて地面に落ち、ゴロン、ゴロンと二回転して、ある一足のボロボロの革靴の前で止まった。
煙が晴れる。
俺たちは、その靴の持ち主を見た。
薄汚れた黒いマントを羽織った、ひょろりと背の高い男だった。
片手をポケットに突っ込み、もう片方の手で目の前の埃を鬱陶しそうに払っている。
彼の背後には、一本の定規で引いたように真っ直ぐに「掃除」された道路が続いていた――本来なら廃車や瓦礫で埋まっていたはずの道が、まるで滑走路のように平坦になっている。
どうやら彼は、ここまで一直線に「歩いて」きたらしい。
邪魔な障害物は、バリケードだろうが、擬人機だろうが、あるいはこの不運な巨大ロボットだろうが、すべてついでに「片付け」ながら。
男は見下ろし、足元にある、ついさっきまでType-09だった鉄塊を一瞥した。
「ケホッ……」
彼は心底嫌そうな声を出し、その金色の死んだ魚のような目で、不快感を露わにした。
「ここの瓦礫は、だんだんデカくなってきやがるな……道の真ん中に置いてあると邪魔だろうが」
彼は足を上げ、小石でも蹴るような気軽さで、その超高密度金属ブロックを蹴り飛ばし、路肩の側溝へと落とした。
ガコンッ。
彼はコートの灰を払い、過労死寸前の社畜のような怨嗟を吐き捨てた。
「あー……めんどくさい。どこまで歩けばまともな空気にありつけるんだ? こんな鉄臭い場所から、どうやって帰ればいいんだよ」
そう言いながら、彼は顔を上げ、カフェの廃墟に隠れている俺たちの方へ、なんとなく視線を流した。
それは、どんな目だったか。
殺意はない。感情もない。
象が道端のアリの巣を見つけたような、踏み潰す興味すらない、ただ単に「視界に入った」だけの目。
だが、その金色の瞳に見られただけで、俺の心臓は冷たい手で鷲掴みにされたように止まり、呼吸さえ忘れてしまった。
こいつは……。
あのロボットなんかより、一万倍ヤバい。
「……」
男は俺たちを気にかけることもなく、眉をひそめると、そのまま踵を返し、市街中心部の方へと歩き去っていった。
彼の足が地面を踏むたび、前方百メートル以内の全ての擬人機が、ドミノ倒しのように整然とプレスされ、ペラペラの鉄板になっていく。
あの黒い背中が少し遠ざかるまで、俺たちは動けなかった。
「……はぁ……っ、はぁ……」
蜂鳥が、深海から浮上した溺水者のように激しく息を吸い込んだ。銃を握る手が激しく震え、顔色は死人のように白い。
「あ、あれ……人間……?」蚊の声が震えている。
「あれが何かなんてどうでもいい……」
俺は通り一本を「更地」にしながら進むその背中を見て、総毛立った。
「あんなの、歩く天災だ! 気が変わって戻ってくる前に、逃げるぞ!!」
「行くわよ!!」
俺たちは二度見する勇気もなかった。
負傷した蜻蛉を担ぎ、昏睡したネフヤを抱え、俺たちは死神の指の間からこぼれ落ちたネズミのように、脇の薄汚い路地裏へと転がり込み、闇の奥へと一目散に逃げ出した。
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