ブラッディ・ファウンテン(後)

 MOD(Modificated Organ Device)。改造器官装置。それはバイオテクノロジーとサイバネティクスが高度に発達したこの時代において一般的となった人体改造の一種である。

 元は医療用の技術ではあったが、視力が落ちた人間がメガネをかけたりコンタクトを入れるように、人々はそれらを手軽に“導入”することができるようになった。

 例えば安く粗悪なアルコールに酔わなくていいように代謝系を強化すること。

 例えば汚染された空気に咳き込まなくてもいいように循環器系を強化すること。

 最初期は一部の階級による特権的技術であったが、後年“インストーラー”と呼ばれる装置の開発が進み、導入はさらに容易かつ安価になった。もちろん安価なものには副反応をはじめとする危険があり、カネをかければそれだけ高性能で安全性の高いMODになる、というのもまた当然のことではあるが。


 この世は歪な時代である。政府や国家は過去の権威であり、統率力を失って久しい。今や世界は資本主義と大企業によって回っている。さらに企業の台頭は企業間の闘争を招き、環境と安全のあり方もまた大きく変わっていった。開発や工業化はなお著しくエスカレートし、飲食の安全は二の次とされ、土壌や空気の汚染対策も顧みられることなどなくなった。

 そんな危険な世界で、MODは広く受け入れられた。人間は環境を変えることを諦め、代わりに自らを環境に適応させることを選んだのだ。


 MODは日常生活の最適化だけに留まらなかった。企業間闘争の下で起こる犯罪や非合法活動の増加、その遂行や解決を請け負う傭兵の台頭。荒事や危険行為を切り抜けるため、彼らはMODを身体能力の強化に応用した。例えば、最もポピュラーなのはアドレナリン分泌を促すための副腎髄質まわりの強化だ。それによって彼らは痛みを感じにくくなり、危機的な状況でも怯むことなく戦闘を継続できるようになった。あるいはどれだけ走っても疲れないように、多少の切り傷なら難なく回復してしまえるように……目や皮膚、筋力といったあらゆる箇所にも、彼らは状況と仕事内容に応じて適宜MODを導入し、身体をカスタマイズしている。


 だから彼らの戦闘もMOD導入が前提だ。MODを導入していない人間は基本的に勝てる見込みはない。痛みに悶え、反応速度も鈍く、少し走っただけで息切れしてしまうようでは勝負にならない。

 そもそも前述の通り、荒事を生業としていない日常を送る身であったとしてもMODを導入していない人間は珍しい。いるとすれば、安全性の高い場所にいて入れる必要が無い身分(人間が人間としてまともに暮らせる場所はそれだけで高い価値がある)か、導入するカネすらない若く収入の低い身分か、あるいは……。


 MODを導入していない人間。

 それらを、人は古いコンピュータ用語に例えて“バニラ”と呼ぶ。


―――


 そして、今ここに、MOD導入者と(自称)バニラの二人が相対している。


 先に仕掛けたのはロイだ。繰り出すほうの腕に神経を集中させ、鍛え上げられた全身の筋肉をフル活用してストレートを放つ。風鳴りのような音とともに拳が振り抜かれる。

 ロイは自らの拳を滅多に振るわない。あくまで兄弟の仕事は攫い屋であり、彼の『怪腕』はいざという時にしか振るわれることはない。それ故に、短時間での近接戦闘能力はほとんど一撃必殺と言ってもいい。打撃を繰り出すたびに血管が盛り上がり、固く絞った筋肉がひび割れる音がする。それを代償に巨大な丸太じみた腕を高速で振り抜くことができる。ロイのMODはすべてそのためにカスタマイズされている。

 シャーリーほどの小柄な相手ならば、ただ一撃当てればいい。肉を削いで骨を割ることなど容易い。アドレナリン放出を全開まで高め、鈍化して見える空間の中、一撃を当てるために拳を正確に振り抜く。

 ロイはその粗野な外見からは想像もつかない、経験と知識を生かしたスマートな打撃を信条としていた。だからこんな小娘など当たりさえすれば勝てる。何度も振る必要はない。当たりさえすればいい。ただ一撃当てればいい。


 なのに、当たらない。どれだけ先読みして打ち込んでも彼女の動きが掴めない。大ぶりにステップを踏むでもなく、ほんの僅かに軸足をずらされ、掠めるかどうかの紙一重で避けられる。

 その間も構えた刀の切っ先はロイを捉えたまま。何故向こうから斬りかかってこないのか。何故当たらないのか。打ち込む先を見ているのか。ならば、とロイはフェイント気味のジャブを放ち、シャーリーの回避を誘う。さらにその先を狙い、今度はやや角度をズラして右拳を打つ。しかし彼女はそれすらも避ける。


 その瞬間、刀が動いた。見交わしの刹那に切っ先がふと下がり、伸びきったロイの右腕を下からの振り抜きで斬りつけたのだ。切りつけられた傷からは一拍おいて赤い線が走り、圧力を高めた水道管のように血が噴き出す。

 だが切り落とされるまでには至らない。この程度で断たれるほどロイの腕は“やわ”に仕上げていない。痛みが脳髄に伝わるより早く、ロイは身体をやや屈め、懐に入りながらもう片方の拳でシャーリーの脇腹を狙うフックを放つ。攻撃した相手の隙を突くのは近接戦闘の基本だ。例え攻撃を受けても、止まることなく反撃できればいい。最終的に相手が先に動かなくなればいい『肉を切らせて骨を断つ』。ロブが読む妙な諺は大抵よくわからないものだったが、その一句だけはロイの印象に残っていた。先の先でも後の先でもなく、後の後を突く。これならば避けようがない。


 柔らかなシャーリーの脇腹をめがけ、ロイの拳が叩き込まれる。

 そして彼女の身体は粉砕され――。


 ……ることなく。


 代わりに、しゃん、と金物が高らかに鳴る音がした。


 気付けば、左拳のブラスナックルの先は日本刀の峰を滑っていた。何もかも構わず振り抜くはずだったロイの拳は、たったそれだけの“いなし”で軌道を逸らされ、地面へと打ち込まれた。刀を振り上げた隙を狙う連撃の左拳を、ロイが痛みに構わず追撃してくることを……その殺気をまたしても察知していたかのように、シャーリーは半身をひねり、刀の角度を下げるだけの動作で受け止めて見せたのだ。

 一切の無駄がない動き。間合いを詰めるロイの両腕の間でシャーリーはポンチョを翻しながらダンスを踊ってみせた。彼から見ればそう例えるしかない動きだった。この間にしてほんの数秒。アドレナリンの放出されたロイにとって、その時間はひどく長いものに思えた。

 行き場を失った左拳が無人バーの床を砕く。最大速度で固い床を叩いてしまった彼の左腕は激しく痛めつけられる。そしてロイが次にシャーリーの姿を見上げた時、彼女は既に大上段に刀を振り上げていた。古い天井照明に照らされ、刃の切っ先は目映く光っていた。


 再び、だん、と強い音が響き、ロイの左腕は勢いよく肩から切り落とされた。


―――


 ほんの数十秒の戦いで右腕は切られ、左腕も切り落とされた。

 痛みはない。ただ、何故、という疑問だけがあった。

 本当にこの女はバニラなのか。

 それが事実というなら、何故あんな動きができるのか。

 常人を越えた反応速度を持つ自分が、何故ああまで翻弄されたのか。


 びくびくと震えながら鮮血をまき散らすロイの充血しきった左腕。その傍にはロブの持っていた拳銃があり、トリガーには切断された指が引っかかっている。

 二つが仲良く床に転がっているのを見ながら、ロイは呻く。

「たかがポン刀持っただけのガキ一人に」

『そのガキにやられて悔しくないのぉ?』

「何が目的だ、テメェ」

『話聞いてた? オツムに栄養いってない、筋肉まかせのダルマさん♡』

 ロイは何も言い返さずに立ち上がり、残る右腕にすべての神経と力を集中させる。斬りつけられた傷から血を吹き出しながら、右腕はさらに太く大きくなっていく。


「人攫いなんて悪いことする奴、許せないし」


 シャーリーがまた口を開いた。

「は」

 ロイはその台詞を聞いて笑った。それはあまりにも無垢で、あまりにも軽薄だったからだ。この世の中、そんな正義感など持っているだけ余分だというのに。

「お前、一体どの時代から来た?」

 それ以上シャーリーは何も喋らない。

「誰だか知らねえが、とんだフリークだ。聞くだけ無駄か。俺は何も喋らねえ。そしてお前は殺す。それでカネをもらって、ロブ兄を助ける。そんだけだ」

『よわーい大人のダメダメ思考♡』

 ロイは拳を振りかぶり、大きく吼えた。そして剛腕を左、右、左と矢鱈に振り回しながら一歩一歩前へと進む。

 勢いのあまり周囲のテーブルやソファが破壊されていく。一撃でも当たればいい。正確さに打ち抜くのを見破られるというなら、狙うことなどしなければいい。振り回すたびに右腕が赤黒く変色していく。今後しばらく使い物にならなくなるだろうが、知ったことではない。ただ今はこのサムライかぶれのガキをグチャグチャにできればいい。このまま追い詰め、手出しをさせず、刀を振らせずに殺す。ロイはさらに歩みを進めていく。

 ロイの読み通り、シャーリーは刀を正眼に構えたまま、腕の届かぬギリギリの間合いを保ちながら後退していく。果たして彼女の背中には無人バーのファウンテンスペースとディスペンサーが迫る。

 ようやく追い詰められたことに気付いたのか、シャーリーは拳が右に大きく振り抜かれた一瞬の隙を見抜き、刀をロイの頭部めがけて袈裟掛けに反撃を繰り出した。

 拳と刀、二つの風鳴りが共鳴する。

 弧を描いた切っ先がロイの肩を切り裂く。

 だが浅い。

(かかった!)

 ロイはそのまま全身を一回転させ、シャーリーに向かって裏拳を叩き込む。アルコール用ディスペンサーが破壊され、文字通りファウンテン(泉)の如く内蔵タンクが液体をまき散らしながら弾け飛ぶ。と共に、シャーリーの身体も無残に吹き飛んで――。


 ……いない。


 刹那、ロイは“殺気”を感じた。再び時間感覚が鈍化し、彼は殺気の放たれた先である足元を見た。そこには地面すれすれまで姿勢を下げたシャーリーの姿があった。振り切った剣先はそのまま、順手に持っていた柄を逆手に変えて。


―――


 次の瞬間、シャーリーは全身のバネを使って勢いよく立ち上がった。と同時に、逆手に変えた手で刀を逆袈裟に振り抜き、ロイの脇腹から肩に掛けて、先ほど斬りつけた直線を今度は逆から深く深く切り裂いた。

 ロイの巨体から血が噴き出す。ディスペンサーから吹き出すアルコールと混じり、そのふたつの液体はシャーリーの身体を激しく濡らす。

「まだまだ!」

 痛みを感じていないのか、ロイはなおも拳を振り下ろさんとする。だがそれより早くシャーリーは再び身を屈め、身体ごと体当たりをしながら、逆手に構えたままの刀を腹へと深く抉るように突き刺す。

「ま……だ……」

 ロイの厚い腹筋を貫通し、脊椎を砕き、背中から刃が突き出る。その巨体はガクガクと痙攣し、口元からは血の泡が吹き出る。

「ま……」

 さらにシャーリーは渾身の力で左へと刀を振り抜く。粘り気のある音と共に臓物が零れ、ロイの痙攣が止まる。内臓を破壊され、脊椎を砕かれ、あらゆる制御を失った身体はやがて膝から崩れ落ち、間もなく動かなくなった。

「が……」

 そして勝負は決した。

 顔にかかった血しぶきを手の甲で拭い、シャーリーはしばらくロイの死体を見つめていた。今の一撃は間違いなく致命傷になった。それでも血が巡っているうちはまだ動く。彼女はそれをよく知っている。

 たっぷり十数秒ほど見て、シャーリーは逆手に持っていた刀を順手に戻す。掌で踊らせた柄にあわせて剣が軽やかに舞い、刃先に滑る血が振るわれていく。

 気を抜かないよう残心しきった後、ようやくシャーリーは大きく息を吸い込む。心臓の高鳴りを押さえて深呼吸を繰り返すたび、血とアルコールと死の匂いが彼女の鼻をつく。吸い込みたくないほどひどい臭いだが、身体は酸素を求めていた。


 片隅に落ちていたトークンが戦闘後の静寂を破るように鳴る。

『しゅうりょうのおじかんです。しゅうりょうのおじかんです。ごりようありがとうございました。これよりごふんいないに、すみやかにごたいしゅつくださ――』

 シャーリーはそれを厚底サンダルで踏み潰して沈黙させる。


「ねえレミー」

『なあに?』

「あたしやっぱり、あんたの口調でまともな交渉が出来るとは思えねえし」

『真っ向から“仕事の邪魔をしたい”って言って素直に答える奴なんていないってゆーか♡ もし穏便に収めるつもりだったら、刀抜くタイミングを遅らせれば良かっただけのことじゃない?』

「……」

『攫い屋なんて許せなくて、最初から斬るつもりでいたんでしょ? “殺し屋”ダーティー・シャーリー♡』

「その名前であたしを呼ぶんじゃねえし」


 レミーと呼ばれる声に挑発され、シャーリーは舌打ちをしながら刀を納めた。


―――


 顔面と左手首を切られたロブは、足元に血だまりを作りつつもまだ生きていた。並の人間ならとっくに出血多量で死んでいるところだが、MOD導入者は単純に“しぶとい”のだ。シャーリーは刀の柄に手をかけ、ロブの首筋に意識を集中させつつ近寄っていく。

「なに……何も、見えない……」

『義眼とか視覚系MODでも入れるつもりだったんでしょ。ざーんねん♡』

 シャーリーは傍に落ちていたメガネを拾う。フレームが歪み、レンズがひび割れたそれを、彼女はまじまじと見て、テーブルに置き直す。

『残ってるのはおにーさんだけになっちゃった♡ 死にたくなかったら、今度こそおにーさんのお仕事を教えて♡』


 その言葉を聞いて弟の死を悟ったのか、ロブは小さく話しはじめた。

「僕達は……依頼主から仕事を貰って受けただけだ。詳しいことは……」

『知ってることはぜーんぶ話して♡』

「攫った子供は……確かユキムラとか言ったか。バニラの子供……金持ちでもなんでもない家だったし、仕事自体は簡単だった」

『あ、いや、ガキの素性なんてどーでもいいから。まず私が知りたいのは、や、と、い、ぬ、し♡』

「……」

「……鉄錆党が、バックにいる。……ボイラーメーカーとか名乗ってたか……」

『あのジジイかー』

 その名に何か覚えがあるのか、レミーは唸る。

「僕達、は……攫った対象がどうなるのかなんて、聞かない」

『ほんとにぃ?』

「でも、これでシヲバラ・メディカルとのコネが出来るとか……なんとか、独り言を口にしてた……」

『鉄錆党とシヲバラが、ねえ』

「それで、子供はどこにいったし」

 ロブがぴくりと反応した。その瞬間、シャーリーは刀の鯉口を切る。だがロブは襲いかかるでもなく、ただ意外そうに、何も見えないはずの視線を彷徨わせた。

「お前、喋れるのか。声が……」

「うっせえし。早く答えて」

「……受け渡し場所は、市道893沿いのガソリンスタンド跡だ。そこから先は知らない」

『確か893号沿いにはシヲバラの営業所があったっけ』

「子供は? 無事なの?」

『傷物にしないで受け渡すのが僕達のポリシーだ。でも連中が何をするかは……』

 そこまで言い切って、ロブは沈黙した。


 シャーリーは抜きかけの刀を納め、ロブへの警戒を解く。それからポケットの中にしまってあったトークンを見て残り時間を確認する。

 飲み放題終了まで残り三十分。ロブに背を向けてノンアルコール用ディスペンサーに向かい、彼女は先ほど飲みそびれたメロンソーダをグラスに注ぐ。返り血を浴びた顔をディスペンサー横のおしぼりで拭き取り、ついでにポンチョも拭く。防塵耐水性が売りの素材だが、しばらく臭いは取れないかもしれない。

『あーあ、今回もまた斬っちゃった♡ でも私、てっきり二人とも斬り殺しちゃって依頼をダメダメにすると思ってた。シャーリーのことだから。そこに関しては前より成長♡ 及第点♡』

「まだ終わってない。子供の元に辿り着いてない。それくらいはあたしにも分かるし」

『はいはい。とりあえず』

「だからそっちも早く手がかりを突き止めて。手遅れにならないうちに」

『……』

「レミー?」

 首から提げていたデバイスが沈黙する。


 ややあって、先ほどまでの甲高い声とはうって変わった冷徹な言葉が紡がれる。

『――今こうしてる間にも、他の誰かが攫われたり殺されたりしてる。それがニューミナカミの日常。人身売買。臓器売買。人体実験。あるいは、ただ無作為に行われる殺人。どれだけ取り繕っても、結局、あんたもその片棒を担ぐ一人に過ぎない。今回だってそう。子供一人救って、それで目の前だけでも安心しようとしてる』

「……だから?」

 シャーリーはメロンソーダを口にし、デバイスを固く握りしめる。

『偽善者♡ 殺ししか能がない、独りよがりのざこざこ娘♡』

「例えそうだとしても。一人でも救えるなら、あたしはそのために動くし」

 そのままソーダを一気に飲み終え、シャーリーはグラスを置く。

『師匠の教えだか知らないけど。その台詞、いつまで言ってられんのかね』

「たぶん、死ぬまで」

『でも本当の目的は復讐なんでしょ?』

「……」

『自己矛盾♡ 自己満足♡』

「それでも……」

『言い返せない♡』

「……」

『黙っちゃった♡ やっぱりざこざこ♡』


 シャーリー。別名、ダーティー・シャーリー。MOD導入が当たり前の世界で、人の命と身体が安く失われていくこの世界で、ただ一切のMODを拒むバニラとして己の才能と腕だけを頼りに、ただ己の中にある義を貫くために戦う……と嘯く、一匹狼の殺し屋である。


―――


 去り際。


「さっ、最後に一つ……教えてくれないか……」

 無残に破壊された無人バーから出て行くシャーリーの背中に向けて、息も絶え絶えのロブがそう言った。彼は切断された左腕を虚空へと伸ばし、何かを掴もうとするかのような動きをしていた。シャーリーは立ち止まり、少しだけ迷った後、ロブの元へと戻った。


 シャーリーはロブの近くで、足をかつん、かつん、と軽く二回鳴らす。

「僕の、見た……最後の……」

 音のする方へ、ロブはボロボロの左腕を伸ばす。

 間を置いてから、彼はまた口を開く。


「教えてほしい……なんで、お前は……“穿いてない”んだ?」


 シャーリーは無言で刀を抜き、ロブの左腕を肩からもう一度切り飛ばす。ロブは崩れ落ち、血だまりに倒れ込んだまま悶絶する。


 血振りをして刀を鞘に収めたシャーリーは、やはり表情を変えずに言い返す。


「袴ってのは下を穿かないのが普通だし」

 そう言って、彼女は今度こそその場を立ち去った。


 シャーリーは嘘をつくことができない。

 嘘をつくことに義はない、という師匠の教えを彼女は律儀に守り続けている。


 そして、聞かれたことに答えない、というのもまた彼女の性分ではなかった。

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ノー・ヴァージン 黒周ダイスケ @xrossing

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