第3話 天与魔法
この世界には魔法がある。
八歳くらいになったある日、僕は魔法について学んでいた。
「では、魔法についての講義を始める」
領主から派遣された教師による魔法の講義。
例によって、教師は僕らを人と思っていない目をしている。そろそろ慣れてきたけど。
魔力のない奴隷の身分でなぜ魔法についての講義を受けられるのか? 当然そこに疑問を持ったが、そもそも魔力の覚醒は十歳前後で起こるらしい。そして、基本的に魔力覚醒は奴隷の子には起こらないが、まれに魔力を持った子が誕生することがあるそうだ。
魔法士は国の宝であり、領主にとっても大切な存在だ。だから、こうして何年かに一度、魔力覚醒前の奴隷の子供にも魔法について講義しているとのことだ。まあ、この中に将来の魔法使いがいればラッキー程度の考えだろう。
「魔法には、二種類ある。汎用魔法と天与魔法だ。汎用魔法は、魔法士が修練を積めば誰でも使えるようになる魔法。天与魔法は、魔法士が獲得する最初の魔法であり、全ての魔法士が一つだけ有する特殊な魔法だ」
汎用魔法の方はなんとなくイメージできるが、天与魔法というのがピンとこない。
「天与魔法は、魔力覚醒と同時に獲得する。その際、その魔法についての扱い方などを直感的に理解する。天与魔法は余程のことがない限り開示してはならない。また、他人の天与魔法について詮索してはならない。その魔法士の根幹となる魔法は、秘匿されるべきだからだ」
うーん、魔法士の切り札みたいなことかな? もしくは奥義だろうか。とにかく、魔法士というのは特別な魔法を一つ持っているらしい。
「魔法士の資質を持つ者は、十歳前後で魔力が覚醒する。その際、先ほど説明した天与魔法の獲得以外にも外見的な変化が現れる。髪と目の色が変化する場合が多い」
髪色と目の色が変わるという話は初めて聞いた。確かに、ここに住んでいる奴隷階級の人たちは皆、くすんだ灰色の髪と目をしている。そして、目の前の教師は鮮やかな緑色の髪と目だ。これまで見た領主から派遣されてきた魔法士たちも様々な色をしていた。なるほど、魔力のあるなしは、そんなところでも判断できるのか。
その後も講義は続いたが、魔力覚醒した際の注意点がほとんどだった。魔法士は力を持った存在なので、何も知らなければ危険だという。獲得した天与魔法が凶悪なもので、制御がきかず辺り一面を破壊し尽くした事例もあるらしい。それほど、魔法というのは恐ろしいものということだ。
「魔力が覚醒した場合、あるいは覚醒した者を発見した場合は、速やかに領主に報告するように。講義は以上だ」
教師はそう締めくくると、すぐに建物から出ていった。それを見て、集まった子供たちがにわかに活気づく。
「なぁなぁ、俺も魔法士になっちゃうのかな!?」
「魔法使えたらかっこいいよなー!」
「どんな魔法使いたい!? あたしは空を飛んでみたいの!」
興奮した様子で、魔法について話している。
やはり、魔法というものにはみんな憧れるのだ。しかも、ここにいる十歳より下の子供たちには、少ないながらも魔法士になれる可能性が残っている。
「にぃに、リビアも魔法、使えるようになる?」
僕の袖を引っ張りながらそう言ったのは、妹のリビアだ。最近はたくさん話せるようになってきた。可愛い。
「んー? そうだなぁ、使えるかもしれないなぁ」
いつか使えるようになる、と言ってあげたいところだが、可能性は低い。あんまり嘘を言いたくはないので、曖昧な返事になってしまった。
「にぃには? にぃには、使える?」
「僕? 僕は魔法が使えるよりも、リビアと母さん、父さんと一緒にいたいなー」
魔力が覚醒して魔法士になった場合、もうここにはいられなくなる。領主の元に行くことになり、魔法を磨き、国のために尽くすことになるだろう。もちろん今よりも豊かな生活が待っているだろうし、僕としても魔法には興味がある。だが、今の幸せを手放してまで望むほどのものではない。
「うぅ、リビアも魔法いらないー。にぃにと一緒がいいー」
「うわぁー可愛い! リビアが可愛いすぎる!」
思わず声に出てしまった。
家族と離れることを想像してしまったのか、半べそになりながら僕に抱きつくリビア。もうね、この子と離れ離れになるなんて考えられないよ。
「リュオンは相変わらずねぇ……」
呆れた声でそう言ってきたのは、隣に住んでいる女の子のロラだ。年齢はたぶん、僕と同じくらい。家が近いこともあって、家族ぐるみで仲良くしている。
「ロラじゃないか。見てよ、リビアが可愛い」
「はいはい、そうねぇ。リビアちゃんは可愛いねぇ」
ロラは年齢の割に大人びている。
まあ、精神年齢で言ったら僕の方が圧倒的に大人なんだけど。
「ロラねぇは、魔法使いたい?」
リビアもロラとは仲良くしている。
やはり、歳上のお姉さんとしてしまっているのだろう。
「え、私? えーと、私はほら……」
そこでなぜか、こちらを見るロラ。
なんだろうか?
「な、なんでもない! 私もみんなと離れたくないかな……」
「ふーん、そっか。にぃには、リビアと離れたくないんだよねー?」
急にこちらに振ってくるリビア。
さっきも同じことを言った気がするんだけど。
「うん? もちろんそうだよ!」
「ふふーん」
なぜか得意げなリビア。
勝ち誇ったような表情も可愛い。
「な!? ま、まあ、妹だもんね? 家族だからそう思うのも普通じゃない? 家族だからね!」
今日もリビアとロラは仲がいい。
楽しげなリビアをずっと眺めていたい気もするが、そろそろ帰ろう。母さんと父さんが待っている。
「それじゃ、そろそろ帰ろうか?」
「はーい」
「あ、ちょっと! 私も一緒に帰る!」
そうして、この世界の魔法のことを少しだけ知り、僕たちは帰路についたのだった。
……
「魔法か〜。ママもリュオンくらいの時には憧れたわね〜」
帰宅した後、話題になるのは当然魔法についてだ。
「魔法士ごっことか流行ったわね〜。懐かしいわ〜」
母さんが子供の頃にも、そういう遊びがあったらしい。たぶん、明日からは魔法士ごっこが流行り始めるのだろう。
「リビアはどんな魔法が使いたいの〜?」
「リビア、魔法いらないの! にぃにとママとパパと一緒にいたいから!」
リビアのいじらしいその言葉を聞いて、母さんは涙ぐんだ。
「ま、まぁ〜!? 聞いたリュオン! この子ったら可愛すぎるでしょ!!」
「にぃにがそう言ってたのー!」
「ちょ、リビア!」
リビアにバラされ、焦る。
そっと母さんの方を見ると、それはもう満面の笑みでこちらを見ていた。
「まぁまぁまぁまぁ〜!! リュオンったらなんて嬉しいこと言ってくれるの〜!!」
「いや、その、なんていうか……」
「も〜、照れちゃって! 二人とも大好きよ〜!!」
そう言って、僕とリビアを抱きしめる母さん。
とても気恥ずかしいが、母さんが嬉しいならそれでいいか。
その後、仕事から戻ってきた父さんに同じ話をされ、感激した父さんにまた揉みくちゃにされてしまった。
「うおー! パパは嬉しい! そうさ、魔法なんてなくたって、家族みんながいれば幸せだ!」
「……うん、そうだね」
心から、思う。
こんな日々がずっと続けばいいな、と。
この幸せが、薄氷の上にあることを僕はまだ知らない。静かに、だが確実に、崩壊の足音が迫ってきていた。
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