第2話 奴隷階級への転生
ここは、魔法がある世界らしい。
まあ、僕にはほとんど関係のない話だけど。
「まあ、リュオン! お手伝いしてくれるの?」
「うん!」
この世界で、僕の名前はリュオンという。
「ありがと〜!! ほんとに可愛いんだからっ! でも、もっと遊んできてもいいのよ?」
「ううん、僕、お母さんのお手伝い、したい!」
母さんのミラは僕を抱き上げて満面の笑みを浮かべている。
「も〜、リュオンったらどこまで可愛いの!」
「おろしてよー」
手をジタバタさせるが、五歳程度の力ではどうにもできない。意外と力強い母さんに抱き寄せられるのは、毎回照れる。
「ままー、りびあもー」
母さんに抱きしめられていると、妹のリビアがヨタヨタとこちらに歩いてきた。
「ま〜! リビアも可愛い! 二人ともぎゅ〜ってしちゃうんだから!」
「きゃっきゃっ!!」
僕と一緒にリビアも抱き上げられ、きゃーきゃーと嬉しそうにはしゃいでいる。
「ただいまー。おー、なんだ? 楽しそうだなー! パパも混ぜろー!!」
わちゃわちゃしていると、父さんのフィルが帰ってきた。そして、母ごと僕たちを抱きしめる。
「パパ、くちゃいー」
「な!? リビア!?」
傷ついた表情でちょっと離れる父さん。
スンスンと自分のニオイを嗅いでいる。
「リュオン、パパ臭いかなぁ!?」
「え、うーん……。ははっ」
「息子に、気を遣われてる!? そんなに臭いの!?」
父さんの仕事柄、ニオイがついてるのは仕方がない。僕は気にならないけど、リビアにとっては臭いだろうと思う。
「あら〜、パパに臭いなんて言っちゃダメよ〜? リビアもパパのこと大好きでしょ〜?」
「うん。パパ、だいすきー」
「うおおお!! パパもリビアが大好きだー! ちょっと体拭いてくるね!!」
そう言って外に出ようとした父だが、急に振り返ってこちらを見た。
「もちろん、ミラとリュオンも大好きだぞ!!」
それだけ言って、父は外へ飛び出していった。
「うふふ、パパったら」
嬉しそうに笑う母。
それを見て、僕も心が温かくなるのを感じる。
貧しく、自由もなく、命の価値が低いこの世界。
しかし、捨てられていた幼い僕を愛してくれる両親と、可愛い妹がいる。
以前の
――――――
この世界には、魔法がある。
魔法っていうのは、魔力というのを使ってなんかすごいことを引き起こすアレだ。魔法を使える人を、魔法士というらしい。
この世界で目覚めた時は、ひどく混乱した。
そりゃそうだろう。死んだと思ったら、子供になってるんだから。しかも、どう考えても今まで生きてきた世界じゃない。まあ、それを理解するには少し時間がかかったけど。
で、まあ魔法の話だ。
この世界は魔法士以外に人権はない。魔力のない人間は、人間と見做されず奴隷階級に落とされる。
僕のいるこの村は、そんな奴隷階級が集められた村だ。百人から二百人くらいでひとまとめにされていて、そんな村が点在しているらしい。
まあ、いまいち詳細はわからない。
小さな子供に社会について知る機会はそれほどなかった。そもそも奴隷階級で知れることなんて、大してないのかもしれないが。
「リュオン〜、配給取りに行くよ〜」
「はーい」
母さんに呼ばれ、一緒に外に出る。
妹のリビアも母さんに抱かれていた。
「今日は何かしらねー?」
「あかいのがいいー」
喋りながら、三人で村の真ん中へと歩いていく。この村では、定期的に食料の配給が行われていた。領主の意向らしいが、奴隷なのに意外と扱いが良いことに驚いたものだ。普通、奴隷というのはこき使われて明日食べるものもままならないという感じなのかと思っていた。
「五十四番、四人構成。受け取れ」
「ありがとうございます〜」
列に並んでいると、番号を呼ばれた。
配給係の役人から配給を受け取り、列を離れる。
「母さん、持つよ」
「ま〜、リュオンありがとね〜」
配給は四人分あるので結構多い。
母さんからいくつか受け取り、運ぶ。
「りびあも、もちゅ」
「ま〜、リビアも持ってくれるの〜? うふふ、それじゃ、これをお願いね?」
「あい!」
母さんはリビアに小さなパンみたいなものを持たせてあげている。それを持ったリビアの表情は真剣そのものだ。可愛い。
「うふふ、二人ともとっても優しくって、ママ嬉しいわ〜」
母さんの鼻歌を聴きながら、帰路につく。
最初、奴隷と聞いた時は恐ろしくなったものだが、今の生活は平穏そのものだ。村の外に出ることはできないし、時折血を抜かれたり、何かの検査を受けさせられるがその程度。食事も寝床もあるし、生活していくには十分だった。
ただ、不気味さは拭えていない。
先ほど配給をしていた役人もそうだが、領主が派遣してくる人間は、僕たちのことを人間と見做していない。番号で管理されていることなど、やはり奴隷なのだと感じることは多々ある。
「リュオン〜? どうしたの〜?」
「ううん、なんでもないよー」
考え込んでいるところを母さんに見られたらしい。なんというか、子供らしい仕草というものは難しい。父さんと母さんは善人で、僕みたいな異質な存在でも受け入れてくれる気もする。でも、僕の方に踏み出す勇気がないので、こうして子供のふりをしていた。
でも、たぶん何かしら勘づかれている気はする。
それでも普通に接してくれる両親には、感謝しかない。
……
「ただいまー! おお、いい匂いだね!」
「おかえりなさい〜。さあ、ご飯を食べましょ〜」
父さんが仕事から帰ってきたので、晩御飯の時間だ。
「リュオン、リビア、ただいまー! 今日のパパも臭くないぞー!」
「きゃっ、きゃっ!」
帰ってくるなり僕とリビアを抱き上げる父さん。
リビアに臭いと言われたあの日から、父さんは体を拭いてから家に帰ってくるようになった。結構、気にしてたみたいだ。
「今日は、なんのお仕事をしてたの?」
「んー? いつも通りの仕事だよー! 色んな液体を混ぜ合わせたり、変な薬草をすり潰したりだね!」
父さんの仕事のことを聞くと、毎回この答えが返ってくる。何か変わったことはないかと時々聞いているのだが、おそらく父さんも何をしているのか理解していないのではないかと最近思い始めた。
これもきっと、魔法関連の何かなのだろう。
安全性が確認できてないものを、奴隷にやらせてるとかそういう感じかな? しかし、今のところ事故みたいなものは起こっていない。僕の考えすぎなのだろうか。
「さあさあ、ご飯にしましょ〜!」
「おお、美味しそうだ! リュオンもリビアも、たくさん食べるんだぞ!」
「はーい」
「あーい!」
まあ、なんでもいいか。
両親と妹、そして僕が穏やかに暮らせるのなら。
この時の僕は、そう思っていた。
この世界の奴隷という存在が、本当はどんな扱いなのかを知りもせずに。
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