第5話猛禽類は、ペットですか?



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### 猛禽類は、ペットですか?


人気バラエティ番組『ワールド・サプライズ!』。今回のドッキリ企画の舞台は、郊外にある巨大なペット同伴OKのホームセンターだ。


ターゲットは、真面目一筋で知られる店長の田中さん。

そして、仕掛け人として送り込まれたのは、清楚な雰囲気のタレント、レイナさん。ただし、彼女の肩には、この企画の真の主役が鎮座していた。


**――百獣の王ならぬ、「百鳥の王」、威風堂々たるイヌワシである。**


「よし、レイナさん、行って! 店長を完全に混乱させて!」

モニタールームで、ディレクターの指示が飛ぶ。


レイナさんは、何食わぬ顔でペットフードの通路を歩き始めた。すれ違う客たちが、二度見し、三度見し、スマホを取り出す。ザワザワとした異様な空気が、すぐに店長の耳にも届いた。


「店長! なんだかスゴイのが来てます!」

血相を変えたアルバイトの報告に、田中店長は「はいはい、大型犬でしょ」と慣れた様子で現場へ向かう。そして、レイナさんの肩にいる”それ”を見て、完全に凍りついた。


(……ワシ? …鷲…だよな? …本物の…?)


数秒間の思考停止の後、プロとしての使命感が彼を動かした。

「あ、あのお客様! 大変申し訳ありませんが、その…鳥は…」


「あら、こんにちは店長さん。大丈夫ですよ、この子、とってもお利口なんです」

レイナさんは、にこやかに返す。イヌワシは、鋭い眼光で店長を射抜きながら、微動だにしない。


「いや、しかしですね、当店のルールでは猛獣や特定危険動物の入店は…」

田中店長が必死に説明していると、レイナさんは心底不思議そうな顔で、こう切り出した。


「あら、困ったわ。この子のポイントカードを作りに来たのに。**ペットの新規登録カウンターはどこですか?**」


「ぺ…ペット…登録…?」

田中店長の脳内で、何かが焼き切れる音がした。

目の前のイヌワシ。法律上は「特定動物」。生態系の頂点。大空の覇者。その存在を、レジの横にある「ペット登録(犬・猫・小動物)」の枠に、どうやって収めろというのか。


「あの…お客様…この子は、その…ペットという分類には、おそらく…」

汗だくで言葉を絞り出す店長。


その時だった。

番組のカメラが、威厳に満ちたイヌワシの横顔をアップで捉える。

そして、テレビの前の視聴者にしか聞こえない心の声(テロップ)が、画面に映し出された。


**『……わしは、ペットなのか?』**


生態系の頂点に立つ者の、あまりにも哲学的な問い。

そのシュールな一言が流れた瞬間、モニタールームは爆笑の渦に包まれた。


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### 【読者視点からの解説】常識の破壊者と、王者の哲学


このエピソードの面白さは、**「日常空間に突如現れた、あまりにも非日常的な存在」**が引き起こす、究極のパニックコメディである点に尽きます。


#### ■ 笑いのポイント


* **圧倒的なビジュアルの違和感:** ホームセンターの蛍光灯の下に、本来なら断崖絶壁にいるはずのイヌワシがいる。この「絶対にありえない光景」が、全ての笑いの始まりです。読者はまず、その異様な組み合わせに度肝を抜かれ、笑ってしまいます。


* **真面目な人ほど面白い、店長のパニック:** ターゲットである店長が、真面目でルールを遵守しようとする人物だからこそ、彼の混乱ぶりが際立ちます。「ルールブックのどこにもイヌワシの対処法なんて書いてない!」という彼の心の叫びが、読者には手に取るように伝わってきます。


* **仕掛け人の「天然っぷり」が状況を悪化させる:** レイナさんが、悪びれもせず「この子のポイントカードを」と、ごく当たり前のことのように要求する。この悪意のない(フリをした)無邪気さが、店長の逃げ道を完全に塞ぎ、状況をさらにカオスなものへと導きます。


* **神の視点からの、完璧なパンチライン:** そして、このドッキリを伝説の域にまで高めるのが、イヌワシ自身の心の声(テロップ)です。人間たちが「これはペットか?否か?」と低次元な議論を繰り広げているのを、超越した存在であるイヌワシ自身が**「そもそも、我はペットという概念に収まる存在なのか?」**と、哲学的な問いを投げかける。この視点の転換が、あまりにもシュールで、爆発的な笑いを生み出します。


#### ■ 結論:王者の威厳が生んだ、最高のコメディ


このエピソードは、単なるドッキリではありません。

人間の作ったちっぽけなルール(店の規則)が、大自然の威厳(イヌワシ)の前にいかに無力であるかを突きつける、壮大な社会風刺コメディ(?)です。読者は、哀れな店長に同情しつつも、王者の風格を崩さないイヌワシの、あまりにも格好良すぎる(そして面白すぎる)一言に、ひれ伏すように笑ってしまうのです。

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カウンタックと気絶した店長 志乃原七海 @09093495732p

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