第2話【エピソード2】完璧すぎたシンデレラフィット



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### 【エピソード2】完璧すぎたシンデレラフィット


ファッション誌『VIVID』のジュエリー特集。撮影場所は、銀座の一等地に店を構える老舗ジュエラー「Maison de Éclat」。


ガラスケースの中で眩い光を放つ宝石たちに、モデルのERIKAさんは目を輝かせた。

「うわー、ステキー! 全部が芸術品みたい…!」


その声を聞き逃さなかったのは、敏腕店員の佐藤さんだ。彼女自身の指先にも、まるで売上実績を物語るかのように、これでもかと指輪がジャラジャラと光っている。

「ありがとうございます。よろしければ、ぜひ試着なさいますか? きっとERIKA様のために作られたような一点が見つかりますわ」

その滑らかなセールストークに、ERIKAさんは満面の笑みで頷いた。


「じゃあまず、このエメラルドの…! あ、こっちのサファイアもいいな。それもお願いします!」

好奇心のままに、手当たり次第に指輪を試していくERIKAさん。その指に宝石がはまるたび、カメラマンから「いいねぇ!」と声が飛ぶ。


そして、アンティークコーナーにあった、一点物のヴィンテージリングに手が伸びた。繊細なプラチナの台座に、夜空の星を閉じ込めたような深い青の石が鎮座している。

「これ、すごく綺麗…」


そっと指にはめてみた、その瞬間。


**「ぴったり!! すごい!!」**


ERIKAさんの声が店内に響いた。まるでオーダーメイドしたかのように、指輪は彼女の中指に吸い付いている。抜き差しならない、まさにシンデレラフィット。


その完璧な一体感を見て、店員の佐藤さんの目に営業の光が宿った。

「まあ…! 運命でございますね。これほどまでにお似合いになるなんて。その指輪も、ERIKA様の元へ来たがっていたに違いありませんわ」


「ですよねー!」と喜んだERIKAさんが、次のカットのために指輪を外そうとした、その時だった。


「……あれ?」


指輪は、ビクともしない。

まるで「ここが私の居場所です」と主張するように、ERIKAさんの指に鎮座したままだ。


「え、ちょっと待って…抜けない…」

ERIKAさんの笑顔が、みるみる引きつっていく。


最初は「あらあら」と微笑んでいた佐藤さんも、事態の深刻さに気づき、顔が青ざめていく。

「石鹸水をお持ちします!」「いえ、ハンドクリームの方が!」「糸を巻いて取る方法が…!」


静かで優雅だったはずのジュエリーショップは、一瞬にして野戦病院と化した。

スタイリストがモデルの大切な指を傷つけまいと必死にクリームを塗り込み、アシスタントが冷や汗を流しながら糸を巻き付け、編集者が「撮影時間が…!」と天を仰ぐ。


そして、数人がかりでERIKAさんの指を引っ張るという、シュールな光景が繰り広げられた。


「せーのっ!」

「う、うぅ…っ!」


数分間の格闘の末、「スポンッ!」という気の抜けた音と共に、指輪はようやく解放された。


赤く腫れあがった指を押さえ、息を切らすERIKAさん。

その隣では、さっきまでの自信に満ちたセールストークはどこへやら、魂が抜けたように真っ白になった佐藤さんが、深々と頭を下げ続けていたという。


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### 【読者視点からの解説】「あるある」地獄と、プロたちの本気


このエピソードの面白さは、誰もが一度は経験したことがあるであろう**「指輪が抜けなくなる」という地獄のような「あるある」**が、最もそれを起こしてはいけない、きらびやかなファッション誌の撮影現場で起きてしまうというギャップにあります。


#### ■ 共感と笑いのツボ


* **絶妙な「あるある」感:** 「ぴったり!」と思った指輪が抜けない恐怖。読者は「わかる、わかるわー!」と、まずモデルのERIKAさんに強く感情移入します。自分の指で同じことが起きた時の、あの血の気が引く感覚を思い出し、思わず笑ってしまいます。


* **セールス店員の自業自得感:** ジャラジャラ指輪をつけた店員さんが、ここぞとばかりに営業モードに入った瞬間、天罰が下るかのような展開は、非常にコミカル。「運命ですわ」なんて言った手前、どうするんだ!と、読者は彼女の焦りを楽しみながら見守ることができます。


* **プロ集団の残念な奮闘:** 本来なら、美しいポーズや完璧なライティングを追求するはずのプロたちが、石鹸や糸を手に、モデルの指一本と格闘している。その**「プロたちの無駄に本気な姿」**が最高にシュールで面白いのです。ハイブランドの店内で繰り広げられる、極めて原始的な救出劇。この落差が笑いを誘います。


#### ■ 結論:きらびやかな世界のドタバタ劇


結局のところ、この話の魅力は**「完璧な世界に起こった、あまりにも人間くさいハプニング」**という点に尽きます。美しいモデル、高価な宝石、敏腕店員…そんな完璧な要素が揃っているからこそ、指輪が抜けないというだけの単純なトラブルが、極上のコメディとして成立するのです。


読者は「トップモデルも指輪が抜けなくなるんだな」と親近感を覚えつつ、プロたちが大真面目にドタバタする様子を安心して笑うことができる、秀逸なエピソードと言えるでしょう。

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