第十九章 終戦

ヴァルハイムの消滅と共に、戦場の様相は一変した。


王を失った鉄喰らいたちは、統制を失い、混乱し始めた。無秩序に暴れる個体もいたが、多くは戦意を喪失し、北へと逃げ去っていった。


「追撃だ! 一体も逃がすな!」


ヴェルナー将軍の号令で、王国軍は反撃に転じた。


銀鋼の武器を持つ部隊が先頭に立ち、逃げ惑う鉄喰らいを次々と倒していく。


戦いは、三日三晩続いた。


そして——


「戦闘終了。北方戦線、制圧完了」


報告を受けた時、鉄平は医療天幕の中にいた。


リーゼが、ベッドに横たわっていた。


共鳴の使いすぎで、彼女は倒れてしまったのだ。意識はあったが、体が動かないほど消耗していた。


「勝ったわね……」


リーゼが、弱々しく微笑んだ。


「ああ。勝った。お前のおかげだ」


「私だけじゃないでしょ」


「でも、お前の共鳴がなければ、ヴァルハイムには勝てなかった」


鉄平は、リーゼの手を握った。


「ありがとう」


リーゼの頬が、わずかに赤らんだ。


「……馬鹿。そんな改まって言わないでよ」


「馬鹿じゃない。本心だ」


「本心って……」


リーゼは目を逸らした。


「ねえ、鉄平」


「何だ」


「戦争、終わったわね」


「ああ」


「これから、どうするの?」


その質問に、鉄平は少し考え込んだ。


「俺は……まだ、やりたいことがたくさんある」


「例えば?」


「製鉄技術の普及。この世界の人々が、より良い鉄を作れるように、知識を広めたい」


「相変わらず、鉄のことばっかりね」


「悪いか?」


「悪くないわよ。でも——」


リーゼは、鉄平の目を見つめた。


「たまには、鉄以外のことも考えなさいよ」


「鉄以外?」


「例えば……私のこととか」


鉄平は、一瞬言葉を失った。


「……それは、どういう——」


「わからないの? 鈍い人ね」


リーゼは、ふくれっ面をした。


「私、あんたのこと——」


その時、天幕の外から声が聞こえた。


「鉄平殿! 将軍がお呼びです!」


「……今、大事な話をしているんだが」


「緊急だそうです!」


鉄平は深いため息をついた。


「すまない、リーゼ。話の続きは、後で——」


「いいわよ、もう」


リーゼは布団を頭まで被った。


「行きなさいよ。私は寝てるから」


「……怒ってるか?」


「怒ってない。怒ってないったら」


明らかに怒っていた。


「後で、ちゃんと話を聞くから」


「いいわよ、別に」


鉄平は苦笑しながら、天幕を後にした。


将軍の元に向かう途中、エルヴィンに出会った。


「お疲れ様です、テッペイ殿」


「お疲れ様です」


「素晴らしい勝利でした。あなたの功績は、歴史に残るでしょう」


「俺だけの力じゃありません」


「謙虚ですね。しかし、事実として、あなたが銀鋼と断鉄剣を開発していなければ、この勝利はなかった」


エルヴィンは、真剣な表情で続けた。


「王国として、あなたに報いたいと考えています。何でも望むものを言ってください」


「何でも?」


「地位でも、財産でも。望むなら、貴族に取り立てることも可能です」


鉄平は、少し考えてから答えた。


「一つだけ、お願いがあります」


「何でしょう」


「製鉄技術の学校を、作りたいんです」


「学校?」


「俺が学んだ知識を、次の世代に伝えたい。より多くの人が製鉄を学べる場所を作って、技術を広めたい」


エルヴィンは、目を見開いた。


「それが、望みですか」


「はい」


「……面白い人だ」


エルヴィンは微笑んだ。


「わかりました。王国として、全面的に支援しましょう」


「ありがとうございます」


こうして、終戦と共に、新たな始まりの芽が生まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る